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老化細胞で非翻訳RNAが高発現し、がんなどに関わる炎症関連遺伝子を誘導-がん研ほか

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2021年08月27日 AM11:45

老化細胞で起こる染色体構造異常とSASPとの関連は?

がん研究会は8月24日、老化細胞において、ゲノムDNA上の繰り返し配列(ペリセントロメア領域)から転写される非翻訳RNA()が、ゲノムの構造維持に重要なCTCFの機能を阻害することで、炎症性遺伝子群(SASP因子)の発現を亢進するメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、がん研究会がん研究所細胞老化プロジェクトの宮田憲一客員研究員、高橋暁子プロジェクトリーダーを中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

細胞老化は、生体に加わるストレス(加齢、肥満、放射線・抗がん剤療法など)によって誘導され、細胞の増殖を停止する重要ながん抑制機構の一つ。その一方で、老化した細胞は体の中で慢性炎症を誘導することで、がんを含むさまざまな加齢性疾患(白内障、動脈硬化、肺線維症など)の病態発症に深く関わっていることが知られている。老化した細胞が慢性炎症を引き起こす原因は、細胞老化に伴う炎症性タンパク質の分泌現象(SASP: Senescence-associated secretory phenotype)によるものだ。そのため、SASPの制御機構を明らかにすることは、がんの発症や悪性化を予防する観点からも重要な課題とされている。近年、老化細胞では染色体構造の異常が起きていることが観察されていたが、この意義はほとんど明らかになっていなかった。研究グループは今回、老化細胞で起こる染色体構造の異常がSASPと関連があるのではないかとの仮説を立て、研究を進めた。

サテライトII RNAに炎症を誘導する機能があると判明

まず、ヒトの正常な細胞に老化を誘導した時に染色体の構造が変化するゲノムDNA領域が1万6,325か所あることを同定し、この領域から転写される652のRNAを解析したところ、非翻訳RNAの一種であるサテライトII RNAが老化細胞で顕著に高発現していることを見出した。このサテライトII RNAを若い細胞に発現させると、炎症に関わるSASP遺伝子領域の染色体構造の変化と遺伝子発現が誘導された。一方、老化細胞でサテライトII RNAを阻害するとSASP遺伝子群の発現が抑制されたことから、サテライトII RNAが炎症を誘導する機能をもつことが示された。

サテライトII RNAは染色体の形を変え、がんなどを引き起こす炎症性遺伝子を誘導

次に、サテライトII RNAが染色体構造を変化させるメカニズムを明らかにするために、サテライトII RNAが細胞内で相互作用するタンパク質を探索し、ゲノムの構造維持に重要なCTCFを同定した。そして、サテライトII RNAがCTCFに結合してその機能を阻害することで、炎症に関わる遺伝子領域の染色体構造を変化させることが示唆された。

さらに老化した細胞では、エクソソームなどの細胞外小胞(EVs: Extracellular Vesicles)の分泌も亢進していることから、老化細胞が分泌したEVsを解析した結果、その中にサテライトII RNAが多く含まれることを発見した。また、老化細胞が分泌したEVsもしくはサテライトII RNAデザイナーエクソソームを取り込んだ細胞では、炎症性遺伝子群の発現上昇と染色体の異常が誘導されることを見出した。これらの結果から、サテライトII RNAがEVsに含まれて細胞外へと分泌され、周囲の細胞のがん化を促す可能性が示された。

大腸がん患者の組織において、がん細胞や周囲の細胞でサテライトII RNAが高発現

最後に、サテライトII RNAとがんとの関連性を明らかにする目的で、がん研究会有明病院の大腸がん患者の手術検体を用いて、-in situ hybridizationを行った結果、正常上皮細胞と比較して大腸がん細胞ではサテライトII RNAの発現が亢進していることを見出した。さらに、正常な線維芽細胞と比較して、がん関連線維芽細胞(CAFs)においてもサテライトII RNAを高発現していたという。

これらの結果は、がん微小環境において、サテライトII RNAを高発現している間質細胞は炎症性タンパク質やサテライトII RNAを含むエクソソームを分泌することで、大腸がんの発症や悪性化に関与している可能性を示唆している。

発見されたメカニズムを標的とした予防法・治療法の開発に期待

今回の研究成果により、体内で老化した細胞ではサテライトII RNAがCTCFの機能を阻害することで、炎症に関わる遺伝子の発現を誘導することが明らかにされた。「がん微小環境においてサテライトII RNAを高発現している間質細胞では炎症性タンパク質やEVsの分泌が亢進しており、これが発がんを促すという新たな可能性が示されたことから、今後このメカニズムを標的とした新しいがんの予防法・治療法の開発が期待される」と、研究グループは述べている。

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