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皮下注で脳まで届くヘテロ核酸医薬を開発、低侵襲に神経難病根治へ-東京医歯大ほか

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2021年08月16日 AM11:45

中枢神経疾患が標的の核酸医薬、現状は腰椎穿刺が必要

東京医科歯科大学は8月13日、従来のアンチセンス核酸医薬では不可能であった全身投与(静脈内および皮下投与)による中枢神経での遺伝子の発現抑制を可能とする新技術の開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科脳神経病態学分野(脳神経内科)の横田隆徳教授、永田哲也プロジェクト准教授が、アイオニス・ファーマシューティカルズ社(IONIS Pharmaceuticals)および武田薬品工業(Takeda Pharmaceutical Company Limited)との共同研究として行ったもの。研究成果は、「Nature Biotechnology」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

核酸医薬は、従来の低分子化合物や抗体医薬では困難な標的RNAの選択的制御を可能とする先端的なバイオ医薬技術。この3年ほどで脊髄性筋萎縮症、家族性アミロイドポリニューロパチーやデュシェンヌ型筋ジストロフィーなどの神経・筋疾患ですでに核酸医薬品が承認されている。これ以外にも、筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン病・アルツハイマー病等、多くの中枢神経疾患で臨床試験が進行している。

一方で中枢神経疾患を標的にする場合、髄腔内に直接投与(腰椎穿刺)する必要がある。これは従来のアンチセンス核酸やsiRNA等の核酸医薬品は全身投与では血液脳関門通過のバリアを通過できず、脳や脊髄といった中枢神経に届かないためだ。髄腔内投与は背中から長い針を腰椎の隙間から脊髄の周りの髄液まで到達させる投与方法で、高齢者に多い抗凝固薬治療を行っている患者や神経難病に多い側弯症を有する患者には投与自体が難しく、また、まれだが感染や出血等さまざまな危険性が伴う。そこで研究グループは、髄腔内投与しなくても、通常の静脈内投与や皮下投与で脳や脊髄の遺伝子制御のできるヘテロ2本鎖核酸の開発に着手した。

開発した核酸医薬、静注や皮下注などで中枢神経の遺伝子発現の抑制に成功

研究グループは、従来の核酸医薬と異なる分子構造、多様なデリバリー分子、独自の細胞内作用メカニズムで高い有効性を有するDNA/RNAヘテロ2本鎖核酸を独自に開発したが、脳の制御はなかなか困難だった。そこで相補鎖にさまざまな脂質送達分子(リガンド)を結合させて、血液脳関門の通過性のスクリーニングを検討した。その結果、コレステロールを結合してマウスの静脈内に投与すると、中枢神経における標的RNAを劇的に抑制した。この効果は複数回投与により、効果が加算されて増強された。

一方で従来の1本鎖アンチセンス核酸では単回投与・複数回投与のいずれでも中枢神経での遺伝子発現抑制効果が見られなかった。また1本鎖アンチセンス核酸にコレステロールを直接結合した核酸でも比較したが、効果が弱く、高い毒性が認められた。

上記の血液脳関門通過型ヘテロ2本鎖核酸を静脈内投与することによって中枢神経への送達が確認され、さまざまな標的RNAに対して中枢神経での遺伝子発現抑制効果が確認された。また、さらに詳細に神経細胞・各種グリア細胞のそれぞれの細胞での遺伝子発現抑制効果を検討したところ、特に神経細胞やミクログリアで強い遺伝子発現抑制効果が観察された。さらに、in vivo共焦点レーザー顕微鏡を用いた実験で得られたライブイメージで、血液脳関門通過型ヘテロ2本鎖核酸でのみ明らかな脳内への移行が観察された。

広範な適応に期待、患者の利便性にも大きな進歩となる可能性

静脈内投与に加えて、皮下投与でも中枢神経での遺伝子発現抑制効果が観察されたことから研究グループは、患者が毎回医療機関に来なくても皮下投与による自己注射が可能となって、患者の利便性にも大きな進歩となる可能性があるとしている。

神経難病の多くは10年以上の長期の治療が必要だ。侵襲性の高い髄腔内投与を回避して、患者に優しく便利な投与方法が可能となれば、特にアルツハイマー病のような頻度の高い疾患に有用となる。加えて神経難病の中には、脳脊髄のみならず心臓や筋肉の全身症状を有する疾患も多くあることから、中枢神経疾患と全身臓器を一度に治療できる長所もある。血液脳関門通過型ヘテロ核酸の適応が期待される対象疾患として、多くの神経変性疾患、てんかん、脳梗塞、難治性の神経感染症など、広範な適応が期待できる。これらの疾患に対し、すでに複数の大手製薬企業で、創薬に向けた共同研究が進行している。

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