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近赤外を用いた新たな光ターゲット抗菌療法を開発-名大ほか

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2021年01月13日 PM12:15

新たな抗微生物治療の候補として注目の卵黄免疫グロブリン

名古屋大学は1月5日、真菌の1つCandida albicansを標的とした近赤外光抗微生物ターゲット療法(Photo-antimicrobial Targeting Therapy:PAT2)の開発に成功したと発表した。これは、同大大学院医学系研究科呼吸器内科学の博士課程4年の安井裕智大学院生、同大高等研究院・JST科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業次世代研究者育成プログラム・最先端イメージング分析センター/医工連携ユニット907プロジェクト(B3ユニット:若手新分野創成研究ユニット)・同大医学系研究科呼吸器内科学の佐藤和秀S-YLC特任助教、同大医学系研究科医真菌オミクス解析学の中川善之准教授、紅朋浩助教、および株式会社イーダブルニュートリション・ジャパンの梅田浩二研究員、Shofiquer Rahman研究員、Nguyen Van Sa代表取締役らの研究グループによるもの。研究成果は、「ADVANCED THERAPEUTICS」に掲載されている。


画像はリリースより

1963年にMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が発見されて以降、現在までに多くの耐性菌が出現。近年では耐性菌の増加に伴い新規抗微生物薬の開発が減少していることから、世界的に新たな抗微生物治療の開発が課題となっている。抗体開発技術の進歩に伴い感染症に対する抗体療法が近年注目を浴びている。しかし、抗体療法は高価であり、単体での抗微生物効果は限定的かつ大量に必要であるという問題点がある。

(IgY)は、鳥類・爬虫類の卵黄に含まれる免疫グロブリンで、子どもに免疫を誘導する。親鳥を免疫化すれば安定して大量に生産できるため新たな抗微生物治療の候補として注目を浴びており、さまざまな微生物に対する効果が報告されている。しかし、単体での効果は限定的で、大量に長期間の使用が必要という制限がある。

IgYを用いた近赤外光抗微生物ターゲット療法

そこで研究グループはこれらの問題点を解決するため、抗体の抗微生物効果を高めることを考え、近赤外応答性プローブ(IR700DX)による効果の増強を計画した。近赤外応答性プローブ(IR700DX)によるがん治療である近赤外光免疫療法は、米国立がんセンター(NCI/NIH)の小林久隆博士らにより2011年に報告されたがん治療法。近赤外光免疫療法は、近赤外光照射によって活性化される光吸収性フタロシアニン色素IRDye700Dx()とモノクローナル抗体の結合体を利用した分子標的がん治療である。がん細胞と抗体-IR700結合体が反応後に、690nmの近赤外光照射によりIR700が活性化されると、抗体-IR700結合体が結合したがん細胞の細胞膜を破壊する。現在臨床応用されており、日本では2020年9月に「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」に対して承認されている。

研究グループは、安価で大量に入手可能なIgYを用いて、近赤外光免疫療法を感染症治療へ応用し、標的微生物のみを選択的に破壊する近赤外光抗微生物ターゲット療法PAT2の開発を試みた。

Candida albicansに対し細胞実験、動物実験で有効と確認

Candida albicansを標的としたIgY(CA-IgY)とIR700との複合体を合成し、CA-IgYIR700を作成。CA-IgY-IR700を使って複数のC.albicans株、C.albicans近縁種との反応を確認したところ、C.albicans近縁種に広く反応を認めた。そこで、CA-IgY-IR700を用いてC.albicansに対して近赤外光微生物ターゲット療法を実施した。顕微鏡で観察したところ、菌体に穴が開き、強く変形して破壊されることが確認され、近赤外光微生物ターゲット療法群により真菌数は有意な低下を認めた。また、マウスの感染性潰瘍モデルではC.albicansの数と炎症の改善を認め、潰瘍治癒経過は非感染モデルと同等となった。

開発したPAT2療法はC.albicansに対して細胞実験、動物実験で有効ということがわかった。PAT2の概念は今回の研究が初めてであり、新たな感染症治療の一つとして重要な基礎的知見となることが期待される。「今後、他の病原微生物や感染モデル、より生体適合性の高いヒト化モノクローナル抗体、を使ったPAT2のさらなる検討と応用が期待される」と、研究グループは述べている。

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