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ウイルスになりすまして免疫細胞を活性化するワクチンアジュバントを発見-京大ほか

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2020年10月08日 AM11:30

自己集合性小分子化合物に着目し、有機小分子を用いたアジュバントを開発

京都大学は10月7日、工業生産可能な新しいタイプのワクチンアジュバントを発見したと発表した。この研究は、同大アイセムスの上杉志成連携主任研究者・副拠点長(兼 同大学化学研究所教授)、同大アイセムスのダニエル・パックウッド講師、東京大学医科学研究所の石井健教授、・免疫学フロンティア研究センターの山崎晶教授、京都大学化学研究所の倉田博基教授、時任宣博教授らの研究グループによるもの。研究成果は、ドイツの化学専門誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載されている。


画像はリリースより

疾患を引き起こす病原体に由来する弱毒化ワクチン(生ワクチン)は、主に自然免疫と適応免疫の両方の反応を継続的に刺激するため、効果的なワクチンとして作用する。非常に効果的な感染症予防の手段だが、安全面において改善の余地がある。この課題を解決するために、病原体の抗原となる部分を取り出した不活性化ワクチン(サブユニットワクチン、スプリットワクチン)が開発され、臨床的に広く用いられてきた。しかし、不活性化ワクチンは十分な免疫原性を有しておらず、十分な免疫応答を誘導するためには、アジュバントと呼ばれる抗原性補強剤との併用が必要だ。これまでにアラム(アルミニウム塩)や水中油型エマルションなどが開発されているが、数が限られている。一般に、免疫応答とアジュバント活性には、分子の大きさが関与していることが知られている。

そこで研究グループは今回、水中において自発的に集合体を形成する自己集合性小分子化合物に着目し、有機小分子を用いたアジュバントの開発を行った。

化学構造が単純で工業化が可能なコリカマイド、自己集合してウイルスに似た大きさと形状に

まず、研究グループが有する小分子化合物ライブラリーから、自己集合性を有する化合物を集めた化合物ライブラリーを構築。7万個の化合物のうち、8,000個の化合物をスクリーニングし、水中で自己集合する化合物116個を発見した。これらの化合物は全て、水中において直径が100nmを超える自己集合体の粒子を形成する。

免疫刺激作用を有する自己集合性化合物を発見するために、116個の自己集合性化合物を、マウスの免疫細胞に添加して、免疫活性化の指標となるIL-6の産生量を定量した。その結果、IL-6産生誘導能を有する化合物1を発見した。化合物1はジアミンリンカーを介して結合した2つのデオキシコール酸部分と2つのグリシンエステルから構成され、対称性の高い構造を有している。約200nmの球状の粒子を形成し、その形と大きさは典型的なウイルスと似ていた。

より活性の高い化合物を得るため、化合物1の構造最適化を実施。さまざまな類縁体化合物を合成し活性を評価したところ、化合物1からグリシンエステル部位を除いて単純化した化合物6が強い活性を示した。この新規化合物を「」と名付けた。コリカマイドは水中において約150nの球状粒子を形成することを、走査型電子顕微鏡およびクライオ電子顕微鏡により確認した。

単純な化学構造のコリカマイドがどのようにして強い免疫活性化を起こすのか、さまざまなケミカルバイオロジー的、分子生物学的手法でメカニズムを解析した。その結果、コリカマイドは自己集合してウイルスに似た大きさと形状になり、免疫細胞にエンドサイトーシスで取り込まれ、エンドソームにあるToll-like receptor7(TLR7)というウイルス受容体に認識されることが明らかになった。TLR7はインフルエンザウイルスやコロナウイルスなどのRNAウイルスを認識して免疫応答する受容体。コリカマイドは、ウイルスになりすまして免疫細胞を活性化することが示唆された。次にIL-6を含めた24種類の免疫サイトカインの産生を調べた。コリカマイドによって免疫細胞はこれらのサイトカインを産生し活性化するが、TLR7をノックアウトした免疫細胞ではサイトカインの産生はほとんど活性化されなかった。また、コリカマイドはTLR7に直接相互作用していることが示唆された。

マウスにおいてインフルエンザワクチンの作用を増強、新興ウイルスワクチンのアジュバントとしての応用に期待

最後に、化合物1およびコリカマイドのアジュバント活性の評価を行った。化合物1およびコリカマイドとともに、インフルエンザスプリットワクチンをマウスに初日と14日後の2回投与し、初回投与から21日後に血清を採取し、抗ヘマグルチニン特異抗体価を定量した。その結果、化合物1およびコリカマイドともにコントロール群と比較して、高いIgG産生を誘導することが明らかになった。特にコリカマイドは臨床使用されているアジュバントであるアラムに匹敵するIgG産生誘導能を有していることが示された。

その後、各アジュバントによるインフルエンザに対する感染予防効果を検証するため、ワクチン接種後のマウスを致死量のインフルエンザウイルスに感染させ、その後の生存率を3週間に渡って調べた。その結果、構造最適化を行ったコリカマイドとともにワクチン投与されたマウスは、臨床使用されているアジュバントであるアラムと同様に高い生存率を示すことが明らかになった。ワクチンだけを投与したマウスは12日後までに全てのマウスが死亡したが、コリカマイドとともに投与すると、21日後でも45%のマウスが生存した。

これらの結果から、コリカマイドはマウスにおいてインフルエンザワクチンの作用を増強することが示された。コリカマイドは化学構造が単純で工業化が可能であり、今後、コリカマイドやその類縁体は新興ウイルスワクチンのアジュバントとして応用されると期待される。

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