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iPS細胞から作製した眼細胞群から角膜上皮細胞のみを純化させる方法を確立-阪大

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2020年04月23日 PM12:15

ラミニンをiPS角膜上皮細胞の単離・純化工程に利用できるかについて検討

大阪大学は4月16日、iPS細胞から作製したさまざまな目の細胞を含む細胞群から、角膜上皮細胞のみを純化する新たな方法を確立したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の林竜平寄附講座教授(幹細胞応用医学寄附講座)、西田幸二教授(眼科学、先導的学際研究機構生命医科学融合フロンティア研究部門)、柴田峻共同研究員(ロート製薬株式会社、幹細胞応用医学寄附講座)らの研究グループが、同大蛋白質研究所の関口清俊寄附研究部門教授らと共同で行ったもの。研究成果は、「Stem Cell Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

iPS細胞は、理論上無限に増殖可能であり、身体を構成するさまざまな細胞に分化可能であることから、再生医療や創薬研究、発生研究に非常に有用な細胞だ。研究グループはこれまでに、ヒトiPS細胞から目全体の発生を模倣した2次元培養系を用いて、さまざまな目の細胞を含む多層状コロニー(SEAM)を誘導し、さらに、機能的な角膜上皮組織(iPS角膜上皮細胞シート)を作製することに成功している。今後、iPS細胞を利用した再生医療技術を実用化・普及していくためには、治療などに用いる目的の細胞のみを純化する工程の確立や効率化が、非常に重要となる。iPS角膜上皮細胞シート移植治療においても、さまざまな目の細胞を含むiPS由来の細胞の中から、角膜上皮細胞のみを単離・純化する工程が必須だ。これまで、角膜上皮細胞の選別・分取には、蛍光活性化セルソーティング(FACS)という技術が用いられてきたが、機器が高価であることや、その管理や使用には熟練した経験や知識を要することから、製造での使用はコスト・生産効率等の面において課題があった。

ラミニンは、上皮組織の基底膜に存在するタンパク質であり、上皮細胞が足場として使用する。研究グループは、これまでにラミニンのアイソフォームの種類がiPS細胞からどの目の細胞になるかの運命決定に大きく関与することを明らかにしている。今回の研究では、関口清俊寄附研究部門教授らのグループが作製したE8断片と呼ばれるインテグリン結合部位をもつ特殊な組換えラミニンアイソフォームを用いて、さまざまなラミニンをiPS細胞から作製した角膜上皮細胞の単離・純化工程に利用できるかについて検討した。

ラミニンの活用で、高純度のiPS角膜上皮細胞シートが作製可能に

研究グループはまず、iPS細胞から分化したさまざまな目の細胞のうち、角膜上皮細胞が短時間で接着しやすいラミニンアイソフォームを調査。その結果、角膜上皮細胞は、短時間において、特にラミニン332、411、511に特異的に接着しやすいことがわかった。一方、211に対しては、角膜上皮細胞以外の、角膜上皮細胞シートを作製する上で不要な非上皮細胞が接着しやすいことを発見した。これらのことから、211を目的外細胞の吸着に使用できる可能性が示唆された。また、この選択的接着性には、角膜上皮細胞を含む上皮細胞のみに発現するインテグリンβ4が関与していることも明らかにした。

さらに、さまざまなラミニンの上でどの目の細胞が増殖しやすいかについて調べたところ、ラミニン332はiPS角膜上皮細胞の増殖を促進し、その他の目の細胞の増殖は促進しないことがわかった。これらのことから、ラミニン332はiPS細胞から生成したさまざまな目の細胞の中でも、特に角膜上皮細胞の接着・増殖を促すことが明らかになった。

また、意図的にiPS由来の角膜上皮細胞中に、角膜上皮以外の目的外細胞を10%程混入させ、さまざまなラミニン上で培養する実験を行った。すると、ラミニン332上で培養した場合は、角膜上皮細胞のみが選択的に増殖を促され、その結果、増殖した角膜上皮細胞により目的外の細胞が押し出される、細胞競合現象が起きることを発見。角膜上皮細胞シートを作製する際に、角膜上皮以外の細胞が混入してしまった場合でも、ラミニン332を用いた培養により、角膜上皮細胞のみの増殖や細胞競合を促し、不要な細胞を淘汰できる可能性が示唆された。これら、ラミニンに対するそれぞれの目の細胞が有する特徴と磁気細胞分離を組み合わせ、新たな角膜上皮細胞の単離・純化工程を確立。iPS細胞から作製した目の細胞から、磁気細胞分離により角膜上皮細胞を濃縮後、ラミニン211に播種することで、不要な細胞を吸着させた後、細胞をさらにラミニン332に撒き直して培養することで、高純度のiPS角膜上皮細胞シートを作製することに成功した。

iPS角膜上皮細胞の単離工程の簡便化と大量生産・コスト削減で、治療法の普及にも期待

今回の研究成果により、角膜疾患治療のための新たな再生医療として期待されるiPS角膜上皮細胞シート移植におけるiPS角膜上皮細胞の単離工程の簡便化や大量生産・コスト削減を可能にし、治療法の普及を促進できる可能性が示唆された。

研究グループは、「再生医療に用いる細胞を単離するにあたり、ラミニンなどの足場の有効な利用法や、細胞の純化において、細胞競合の応用可能性等について新たな知見を提供するものであり、今後の再生医療における目的細胞純化について、幅広い知見を提供できると考えられる」と、述べている。

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