医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 花粉症治療に重要なシラカバ花粉アレルゲン「Bet v 1」の大量生産に成功-筑波大ほか

花粉症治療に重要なシラカバ花粉アレルゲン「Bet v 1」の大量生産に成功-筑波大ほか

読了時間:約 2分58秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年04月07日 AM11:30

」は十分量のアレルゲンを集めるのが難しい

筑波大学は4月3日、シラカバ花粉症を引き起こすアレルゲン「Bet v 1」を大量に生産することに成功。また、精製されたBet v 1は、シラカバ花粉症患者のIgE抗体に対し、これまでのアレルゲンと同様の結合をすることがわかったと発表した。これは、同大生命環境系(つくば機能植物イノベーション研究センター) 三浦謙治教授、医学医療系 野口恵美子教授、福井大学医学部 藤枝重治教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Plant Science」に掲載されている。


画像はリリースより

シラカバ花粉症患者は欧米や北海道で多くみられ、世界で1億人以上が罹患していると推測されている。花粉症は、体外から侵入してくる花粉に存在するアレルゲンと、体内で作られるIgE抗体が結びつくことで、アレルギー症状が引き起こされる。シラカバにおける主要なアレルゲンは、Bet v 1だ。

一方、花粉症の治療法として、「アレルゲン免疫療法」が注目されている。これは、アレルゲンを少量ずつ患者に投与することで、体をアレルゲンに慣らし、アレルギー症状をやわらげる治療法で、長期にわたり症状を抑える可能性がある。この療法に用いられるアレルゲンの調製には、花粉からのエキスや、大腸菌などの異種タンパク質発現システムを用いた組換えアレルゲンが使用されている。しかし、花粉エキスを用いる場合は大量の花粉を用意する必要があること、バクテリア由来の組換えアレルゲンを用いる場合は植物特有のタンパク質修飾がなされないといった問題点があった。植物においてBet v 1を作出する研究開発も行われてきたが、収量が低い(0.2mg/g新鮮重)という課題が残っていた。

研究グループはこれまでに、植物にて大量のタンパク質を生産することができる独自のシステムを開発している。同システムでは、ジェミニウイルスのDNA複製システムと2つのターミネーターをタンデムにつなげることで、植物におけるタンパク質の発現量を増大し、ベンサミアナタバコ1gあたり約4mgの緑色蛍光タンパク質(GFP)の蓄積に成功している。植物においてタンパク質を生産することから、植物特有のタンパク質修飾がなされることが期待される。研究グループは今回、同システムを用いてこれまでの問題点を克服し、患者IgEによって認識されるBet v 1の大量調製を試みた。

より天然に近い「組換えBet v 1」を、最高レベルの収量で作出することに成功

研究では、シラカバ花粉アレルゲンBet v 1を発現できるようなベクター(遺伝子を導入するための核酸分子)を設計し、つくばシステムを用いて、ベンサミアナタバコにアグロインフィルトレーション(アグロバクテリウムの感染)により、Bet v 1を発現させた。

その結果、アグロインフィルトレーション後5日目において、ベンサミアナタバコ1gあたり、約1.2mgのBet v 1が発現していた。これは、従来法に比べて6倍の発現量であり、大量のアレルゲン生産に成功した。ベンサミアナタバコ葉から可溶性タンパク質を抽出し、硫酸アンモニウムによる分画およびアフィニティカラムクロマトグラフィーによりBet v 1を精製したところ、ほぼ単一のバンドが得られ、LC-MS/MS(液体クロマトグラフィータンデム質量分析)解析により、精製品がBet v 1であることが確認できた。精製Bet v 1を詳細に調べてみると、わずかにバンドがシフトしており、このバンドシフトは、タンパク質の糖鎖修飾によるものであると示唆された。

シラカバ花粉症患者を含むヒト血清を用いて、精製Bet v 1とIgE抗体との反応性を調べたところ、精製Bet v 1はシラカバ花粉症患者IgE抗体によって認識されることが明らかになった。つまり、同システムにより、シラカバ花粉症の免疫治療に利用可能な、より天然に近い組換えBet v 1を、これまでに報告のある中でも最高レベルの収量で作出することに成功した。

果物が原因の口腔アレルギーに対するアレルゲン免疫療法への発展も期待

今回の研究成果は、植物バイオテクノロジー分野の発展と花粉症治療の分野に貢献するものと期待される。

研究グループは、「植物由来のBet v 1を大量に生産できる方法が構築できたことから、つくばシステムは、Bet v 1と同じPR10ファミリーに属するアレルゲンの生産にも応用できるものと期待される。PR10ファミリーは、果物を食べると口がかゆくなったり、口腔が腫脹したりする口腔アレルギーを引き起こすリンゴMal d 1、モモPrup1、ヘーゼルナッツCor a 1、ダイズ(豆乳)Gly m 4などの主要なアレルゲンだ。これらのアレルゲンの効率的な生産によって、口腔アレルギーに対するアレルゲン免疫療法への発展も期待できる」と、述べている。(QLifePro編集部)

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 脊髄損傷、HGF遺伝子発現制御による神経再生の仕組みを解明-藤田医科大ほか
  • 抗がん剤耐性の大腸がんにTEAD/TNF阻害剤が有効な可能性-東京医歯大ほか
  • 養育者の食事リテラシーが低いほど、子は朝食抜きの傾向-成育医療センターほか
  • 急速進行性糸球体腎炎による透析導入率、70歳以上で上昇傾向-新潟大
  • 大腿骨頭壊死症、骨粗しょう症薬が新規治療薬になる可能性-名大