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抗肥満薬「オルリスタット」が黄色ブドウ球菌の病原因子阻害、仕組みも解明-京大ほか

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2020年04月02日 AM11:00

SA菌のリパーゼ「」は抗MRSA薬の標的として注目

京都大学は3月31日、黄色ブドウ球菌が産生する病原因子の1つである「(SAL)」の立体構造をX線構造解析の方法を用いて、世界で初めて解明したと発表した。この研究は、同大医学研究科の奥野友紀子特定講師、京都工芸繊維大学の北所健悟准教授、大阪府立大学の神谷重樹教授、理化学研究所の引間孝明研究員と山本雅貴部門長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

世界中の病院において、既存の抗菌薬が効かない細菌である「スーパーバグ」が確認され、その流行が危惧されている。(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)はスーパーバグの代表例で、各種の抗菌薬に抵抗性を示すため、MRSA感染症という院内感染が問題となっている。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus;以下、SA菌)は、化膿した傷口や皮膚表面に存在する常在菌で、けがの傷口から体内に侵入し、多くの病原因子を産生して種々の病気を引き起こす。多種多様な細菌が存在する皮膚表面でSA菌が異常に増えると、アトピー性皮膚炎が発症することがわかっている。

SA菌が産生する病原因子の1つである「リパーゼ(SAL)」はSA菌の増殖と相関があり、免疫応答由来の殺菌効果を持つ脂質を分解し、菌の生存率を向上させて生体防御を破壊することがわかっている。このことからSAL阻害薬は抗MRSA薬の標的のみならずアトピー性皮膚炎の薬として注目されている。そこで今回、研究グループは、より高い効果を持つ副作用の少ない新しい薬の探索・設計に貢献するため、これまで大型放射光施設「」の強い放射光を用いたX線構造解析の経験を生かし、SALの立体構造の解明を試みた。

ヒトリパーゼ阻害剤「」に既存SAL阻害剤の200倍以上の阻害活性

研究開始当初、SALの立体構造についての情報は全くなかった。またSALに対する阻害剤も活性の強い有効なものはなかった。そこで研究グループは、まずSALの阻害剤を探索。その結果、抗肥満薬として海外で既に認可されているオルリスタットという薬がSALに対して、50%阻害濃度(IC50値)2.4 µMで阻害することを発見した。オルリスタットの阻害活性は今までに知られていたSAL阻害剤のファルネソールより200倍以上強いことがわかった。

このオルリスタット分子がSALに結合した複合体の立体構造を、X線結晶構造解析の手法を用いて原子レベルで解明するため、研究グループはまず大腸菌でのSALの大量生産系を構築。純度の高いSALを精製し、SAL単体の結晶とオルリスタットを共結晶化した結晶を作成した。X線回折実験およびデータ収集は、大型放射光施設「SPring-8」のビームラインBL41XUならびにBL44XUで行ったという。

解析の結果、SALの立体構造は既存の他の細菌由来のリパーゼとよく似た3次元構造をとり、活性部位にフタをする役目を持ったLidドメインが開いた状態のオープン型コンフォメーションを取っていることが判明。オルリスタット分子はSALの活性部位である「鍵穴」に対して、「鍵」分子としてぴったりはまり込んでいることがわかった。またオルリスタットは比較的大きな分子で、SALの触媒残基である116番目のセリン残基の酸素原子と共有結合していた。そのほかの2つの部分はSALの比較的広い大きな活性部位のポケットに疎水性相互作用する形で存在していることがわかった。これらの結合様式によって、オルリスタットはSALに対して高い選択的親和性を示すことが示唆された。

ドラッグリポジショニングとして、感染症治療薬の適応に期待

今回発見された、オルリスタットとSALの相互作用から、薬のデザインのための構造基盤が構築された。MRSAはほとんどの抗菌薬に耐性があり、新生児や老人などの免疫力の弱い患者を死に至らしめることがわかっている。MRSAに対する抗菌薬以外の薬の探求は重要で、SALの阻害剤は、MRSA感染症への新規な作用機序の薬として期待される。研究グループは、「本研究の結果は、SALを標的としてMRSAや皮膚病などの疾患に対して、その構造情報を基にした創薬(Structure based drug design)も可能にすると期待できる。またオルリスタットは海外で既に認可されている薬であることから、ドラッグリポジショニングとして、感染症への薬の適応の幅が広がることが期待できる」と、述べている。(QLifePro編集部)

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