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光遺伝学を用いて、感覚神経の活動を選択的に活性化させることに成功-NCNPら

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2019年09月12日 AM11:45

実験的に操作することが不可能とされていた自己運動感覚

)は9月6日、触覚・筋感覚に関わる感覚神経の活動を光刺激によって選択的に活性化させることに成功したと発表した。この研究は、NCNP神経研究所モデル動物開発研究部の窪田慎治研究員、Sidikjan Gupur研究員、および関和彦部長と、京都大学霊長類研究所神経科学研究部門統合脳システム分野の井上謙一助教と高田昌彦教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Physiology」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

ヒトは運動することによって、さまざまなことを感じることができる。物体の温度、形状など身体の外部の情報だけでなく、自分が動いているということも感じることができる()。これは、皮膚や筋肉にあるセンサーが、身体の外部(温度・圧力・摩擦力など)や、身体の内部(筋肉の収縮度、動き、腱にかかっている力)の状態を感知し、脳に伝達されているからである。身体外部の感覚は自分が知覚することができるため、心理学的な実験などで神経機構の多くがすでに解明されている。一方、身体内部の状態は通常、個別に知覚することができないため、センサーからの感覚情報がヒトの行動制御に果たす役割は、多くが不明のままだった。

感覚機能が障害された患者は身体の動きの制御が不可能になるため、自己運動感覚の重要性は広く認知されていたが、自己運動感覚は自分の動きで引き起こされるため、実験的に操作することが不可能と考えられており、検証する方法もなかった。これまでに、運動に関連した感覚を活性化する手法として、神経細胞の種類やそれが伝える感覚の種類に関わらず、ある部位の神経全体を電気で刺激する方法が広く用いられていた。しかし、それでは他種類の感覚神経が同時に刺激されるため、自己運動感覚のみを活性化したり、過度な活動を抑制したりすることは困難だった。

光刺激で活性化された感覚信号が、運動に関連した感覚を選択的に活性化

研究グループは、電気ではなく、光で末梢感覚神経の活動を制御できないかと考え、実験を行った。

まず、ラットの感覚神経細胞に遺伝子導入を行うため、蛍光タンパク質遺伝子を組み込んだアデノ随伴ウイルス()ベクターを末梢神経(座骨神経)に注入。すると、感覚神経細胞に遺伝子導入されていることが確認された。6およびAAV9それぞれの指向性を確認したところ、6では小型の感覚神経細胞に指向性を持ち、9は中型から大型の感覚神経細胞に指向性を持つことが確認された。感覚神経細胞の中でも、小型の細胞は主に痛みなど痛覚に関与し、中型から大型の細胞は触覚や筋感覚に関与していることが知られている。したがって、AAVのタイプを選択することで、感覚の種類に応じて選択的に感覚神経細胞に遺伝子を導入することが可能であることが示された。

しかし、AAV9を用いて遺伝子導入した感覚神経細胞を光刺激しても、神経細胞の反応を引き起こすことはできなかった。つまり、AAVベクターは標的とする神経細胞に高い割合(80%以上)で感染しているにもかかわらず、そこに同時に導入されたはずの光感受性物質(チャネルロドプシン)を光で刺激しても反応が誘発できないということになる。そこで、ウィルスベクター濃度と感染期間の組み合わせが光刺激反応に及ぼす影響について、多数の組み合わせを網羅的に調査。その結果、光遺伝子の末梢感覚神経細胞への導入には、ベクター濃度と感染期間について最適な組み合わせがあることを発見した。その組み合わせ以外では、チャネルロドプシンの毒性が細胞に悪影響を及ぼしていることが判明した。この最適な組み合わせ条件を用いると、電気刺激に相当する神経活動が感覚神経細胞の軸索より記録された。

光刺激に対する感覚神経細胞の応答の特徴から、主に触覚や筋感覚を支配する神経細胞が選択的に刺激されていると考えられた。そして、誘発された感覚信号は、脊髄内の神経回路を介して運動神経を興奮させることが示された。感覚情報は、末梢神経を介して伝導する感覚信号が脊髄から脳幹や大脳などに伝わり、神経細胞を活動させることで触覚や筋感覚、すなわち運動の感覚として知覚される。したがって、光刺激によって活性化された感覚信号が、これら運動に関連した感覚を選択的に活性化することが可能であることが証明された。

新たな慢性疼痛治療などへの発展に期待

触覚や筋感覚に関わる感覚神経細胞の活動を選択的に制御することが可能となることで、脊髄損傷や脳損傷に伴う機能障害の病態の理解並びに感覚障害に対する治療法への応用が期待される。具体的には、運動に関連した感覚機能の低下により協調運動が阻害されている場合には、筋感覚などを活性化させることにより、運動機能の再獲得が促進される可能性がある。中枢神経損傷後に起こる痙縮と呼ばれる手足の不随意運動・筋肉のこわばりが見られる場合には、筋肉からの過剰な感覚入力を選択的に抑えることで、その症状を改善することが可能となる。また、触覚や筋感覚などの過剰な入力は、痛みの感覚神経の感度を高めることが指摘されているため、今後、運動だけでなく、疼痛治療にも発展する可能性がある。さらに、運動中に運動に関連した感覚神経細胞の活動を活性化・抑制することにより、ヒトがどのように運動の感覚を利用して身体を動かしているのかを明らかにすることが可能だという。

研究グループは、「今回我々が開発した手法を応用することにより、自己運動感覚に関わる感覚神経細胞への選択的遺伝子導入が可能になり、身体運動の制御に関する神経機構の研究に大きく貢献する。また、この感覚細胞腫選択的な遺伝導入や活動操作は、自己運動感覚以外への応用も期待されます。例えば、自己運動感覚を正常に保ったまま、痛み感覚のみを抑制するような、新たな慢性疼痛治療などに発展する可能性がある」と、述べている。

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