「日時」の失認だけではない、「時間感覚」の曖昧さに着目
昭和医科大学は12月2日、認知症患者が「昨日」や「明日」といった時間の感覚をどのように感じているのかを調べ、その感覚の変化と脳血流との関係を明らかにしたと発表した。この研究は、同大藤が丘病院脳神経内科の二村明德講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Brain Communications」に掲載されている。
認知機能が正常な人は普段、「過去」「現在」「未来」といった時間の流れを自然に感じている。しかし、認知症になると、「今が何年何月なのか」という現在の日時だけでなく、「昨日のこと」や「明日の予定」といった時間の感覚そのものが曖昧になることがある。今回の研究では、そうした時間の感覚(時間見当識)に着目し、認知症患者ではそれがどのように変化するのか、また脳のどの部分と関係があるのかを調べた。
時間的距離の捉え方で3つのグループに分類
今回の研究は、健常者(ND)10人、軽度認知障害(MCI)10人、アルツハイマー型認知症(AD)37人を対象に行った。実験では、「昨日」「明日」などの言葉を使った短い文を提示し、それが「今」からどれくらい離れているかを9段階で評価させた。
その回答パターンを分析した結果、次の3つのグループ(クラスター)に分類された。
・クラスターI(時間を正確に区別できる):ND全員、MCIの半数、ADの約2割が該当する。
・クラスターII(「過去・現在・未来」とざっくり区別):MCIの3割、ADの3割が該当する。
・クラスターIII(時間の区別ができない):MCIの2割、ADの半数以上が該当する。
脳梁周囲領域の血流量で、どのグループに属するか予測可能
さらに、脳血流を画像で調べたところ、脳の内側にある「脳梁周囲領域(pericallosal region)」の血流から、被験者がどのグループに属するかを最大75%の精度で予測できた。
この脳梁周囲領域には、「帯状回後部」や「楔前部(せつぜんぶ)」という時間見当識と関連の深い脳領域が含まれている。これら領域の脳血流量が、時間の感覚の正確さと関係していると考えられた。
臨床現場の実感を科学的に裏付け、支援への応用に期待
時間の感覚が曖昧になると、「すぐにやらなければならないこと」も「遠い未来のこと」のように感じられ、日常生活に支障が出ることがある。これまで、アルツハイマー病では「日時がわからなくなる」と言われてきたが、今回の研究はさらに一歩進み、「過去・現在・未来」の感覚自体が曖昧になること、そして、それが脳の特定の領域の血流と関連していることを明らかにした。
「認知症の患者と接していると、「最近のことがよくわからない」「予定がうまく管理できない」といった訴えをよく耳にする。これは単に物忘れの問題ではなく、時間そのものがどのくらい「今の自分に関係しているか」を感じる力が弱まっている可能性があると考えてきた。今回の研究では、その感覚の変化が脳の特定の部位と関連していることを示すことができ、現場で感じていた「時間感覚の不思議」を科学的に裏付ける一歩となった。今後は、このような知見が、認知症の早期発見や、生活支援の工夫にもつながっていくことを期待している」と、研究グループは述べている。
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・昭和医科大学 プレスリリース


