出生体重や乳児期の体重増加量が、成人期の肥満・やせに与える影響は?
国立成育医療研究センターは9月10日、母子健康手帳の情報を用いたコホート研究により、「乳児期の体重増加」が「成人期の肥満」の割合にどのような影響を与えるのかについて検討し、その結果を発表した。この研究は、同センター周産期・母性診療センター産科の小川浩平診療部長らの研究グループによるもの。研究成果は、Journal of Developmental Origins of Health and Disease」に掲載されている。

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成人期の肥満・やせは、心血管疾患や妊娠合併症などの将来的な健康リスクと関連することが知られている。さらに妊娠前の肥満・やせは母体のみならず、子どもの予後にも影響を与えることが知られている。これは「DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)」という、発育初期の栄養環境が将来の健康に影響を及ぼすとされる概念に基づいている。DOHaDは胎児期に母体から供給される栄養の不足や過剰が、子どもにどのような影響を及ぼすのかを長期的に検討する考え方であるが、近年ではこの概念が拡大し、出生後~乳幼児期(1~2歳)までの体重増加量と、その後の肥満・やせとの関連にも関心が寄せられている。
これまで、日本人女性を対象に出生直後から乳児期早期(生後1~6か月)の体重増加量と成人期の体重との関連に着目した研究はなかった。そこで研究グループは今回、母子健康手帳に記載されているデータを利用して、出生体重や乳児期の体重増加量が成人期の肥満・やせに与える影響を調査した。
1,441人の妊婦対象、記録された本人の乳児期の体重増加量と、やせ・肥満との関連を解析
2017年4月~2021年12月の期間に同センターへ通院し、研究参加と母子健康手帳のデータ提供に同意した1,501人の妊婦のうち、妊娠前体重データが揃っていた1,441人を対象とした。対象者には、出生体重、生後1・3・6か月の体重、授乳方法などの情報が記載された自身の母子健康手帳を持参してもらい、データを収集した。
生後1・3・6か月時の体重増加量を5カテゴリーに分類(人数で均等割)し、妊娠前の体重から、それぞれのカテゴリーの中で「やせ(BMI<18.5)」と「肥満(BMI≧25)」になった人の割合を算出。乳児期の体重増加量と「やせ」「肥満」との関連を解析した。
乳児期に体重が多く増加しても、成人期に肥満になる割合は上昇せず
その結果、乳児期に体重が多く増加しても、成人期に肥満になる割合は上昇しなかった。生後6か月時点で最も体重増加が大きかった群(5,230~7,700g)でも、妊娠前の肥満(BMI>25)との関連はなかった。
乳児期の十分な体重増加で、成人期のやせ割合が低下
一方で、乳児期に体重が多く増加すると、成人期のやせの割合は低下した。生後6か月の時点で最も体重増加が大きかった群(5,230g~7,700g)では、妊娠前にやせ(BMI<18.5)になる割合が低下した。十分な体重増加が、将来のやせを予防する可能性が示唆された。ただし、生後1か月・3か月時点での体重増加量は、妊娠前の肥満・やせの割合に関連はなかったとしている。
さらに、授乳や栄養摂取が適正か否かを判断する際、乳児期の体重増加量だけを根拠に安易に授乳量の制限をすべきではない可能性が示唆された。母子健康手帳に記載されている成長曲線は、赤ちゃんの発育を評価するための目安であり、必ずその通りに発育していないといけないわけではない。乳幼児健診で医師や保健師などに見てもらうことが重要と考えられる。
体重増加だけを理由に授乳量を制限しなくてもよい可能性
多くの母親は、赤ちゃんの体重が大きく増えると「将来肥満になるのでは」と、ミルクをこのままの量であげていいのか心配することもあるだろう。しかし、今回の研究から、乳児期の体重増加が多くても将来の肥満の割合は上昇せず、むしろやせの割合が低下する可能性があることが明らかになった。乳児期の栄養環境は将来にわたって影響する。成長曲線のグラフの範囲よりも多く体重が増えているからといって、授乳や栄養摂取について安易に制限するのは慎重であるべきと考える、と研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース


