アルデヒド分解能が低いALDH2*2、エタノール以外の化学物質の影響は不明
大阪公立大学は9月8日、ヒトの遺伝子変異(ALDH2*2)を再現したマウスの体内にアリルアルコールを投与すると、複数種類のアルデヒドが血液中で急速に増加することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院獣医学研究科の高見優生氏、中村純博士(客員研究員)、井澤武史准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Free Radical Biology and Medicine」にオンライン掲載されている。

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アルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)は、体内で発生する有害なアルデヒドを分解する重要な酵素である。飲酒時には、酒に含まれるエタノールが肝臓でアセトアルデヒドに代謝された後、ALDH2によって解毒される。日本人の約4割は、この酵素の機能が低下する遺伝子変異(ALDH2*2)を持ち、少量の飲酒でも顔が赤くなったり、気分が悪くなったりする。さらに、ALDH2*2を持つ人は、飲酒量が多いと食道がんの発症リスクが高くなることが知られている。
ALDH2*2を持つ人に対するエタノールの影響は、これまでに広く研究されてきた。しかし、生活環境から体内に入ってくる他の化学物質の影響については、ほとんどわかっていなかった。
そこで今回の研究では、ヒトのALDH2*2を再現したマウス(Aldh2*2ノックインマウス)を用いて、体内で急速にアルデヒドが発生したときにマウスに起こる変化を検証した。
アリルアルコールにより複数のアルデヒドが急激に増加、「アルデヒドストーム」と命名
Aldh2*2ノックインマウスに、アルコールの一種であるアリルアルコールを投与したところ、アクロレイン(アリルアルコールが代謝されて生じるアルデヒド)だけでなく、同時にマロンジアルデヒドやホルムアルデヒドなどの複数のアルデヒドが血液中で急速に増加することを発見した。研究グループはこの現象を「アルデヒドストーム」と名付けた。
アルデヒドストームにより重度肝障害、肝臓でのグルタチオン枯渇が原因
さらに、アルデヒドストームで生じたアルデヒドは肝臓に蓄積して、重度の肝障害を起こすことを見出した。このアルデヒドストームは、アルデヒドの解毒と酸化ストレスの抑制に関わるグルタチオンが、肝臓で枯渇することで引き起こされていた。また、グルタチオンの枯渇によって、肝臓で酸化ストレスが促進され、フェロトーシスが誘導されることがわかった。
ALDH2*2の新たな健康リスクを示唆、ヒトでの評価は今後の課題
今回の研究によって、生体内ではアルデヒド代謝、レドックス(酸化還元)バランス、およびフェロトーシス経路が密接に関連することが明らかになった。アクロレインは、電子タバコの煙や抗がん剤の代謝産物にも含まれる。同研究の成果から、喫煙や薬剤などに起因する日常的なアルデヒド暴露に対してもALDH2*2を持つ人は健康リスクが高い可能性が示された。
「今後は、ALDH2*2を持つ人におけるアルデヒドの慢性的な暴露による健康影響、特に発がんへの関与について明らかにしていきたい」と、研究グループは述べている。
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