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神経性過食症への治療者誘導型オンライン認知行動療法の有効性実証-福井大ほか

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2025年09月03日 AM09:30

治療者誘導型オンライン認知行動療法、アジア圏において十分に検証されていなかった

福井大学は8月25日、神経性過食症の女性患者を対象に多施設共同ランダム化比較試験を行い、治療者誘導型オンライン認知行動療法の有効性をアジアで初めて、また世界で2例目として実証したと発表した。この研究は、同大子どものこころの発達研究センターの濱谷沙世助教と水野賀史准教授、同大医学系部門医学領域病態制御医学講座精神医学の小坂浩隆教授、鹿児島大学病院の松本一記研究准教授、東北大学病院心療内科の佐藤康弘講師、スウェーデン・リンショーピング大学のGerhard Andersson教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Network Open」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
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神経性過食症は、食行動をコントロールできずに短時間に大量の食べ物を食べてしまう症状で、過食と代償行動(嘔吐や下剤乱用など)を繰り返す。また、体重に対する過度のこだわり、自己評価への体重・体型の過剰な影響があり、日常生活機能に重大な障害を引き起こす精神疾患である。男女比はおおむね1対10と、女性に多い病気である。有病率が増加しつつあり、慢性化やさまざまな身体的・心理的な健康被害を引き起こすリスクを伴う。しかし、科学的根拠のある認知行動療法を提供可能な施設は都市部に偏在しており、専門家も少ないため、たくさんの人が専門的な治療を受ける機会がない。特に日本を含むアジア圏では、神経性過食症の女性を対象とした治療者誘導型オンライン認知行動療法の有効性や受容性が十分に検証されていなかった。そこで今回の研究では、日本文化に適応させた治療者誘導型オンライン認知行動療法の有効性と受容性を、日本全国の多施設共同で科学的に評価した。

過食や代償行動エピソードを減少させ、寛解率も向上

治療者誘導型オンライン認知行動療法は、文章、写真、動画形式等のセルフヘルプのプログラムをWeb上で公開し、患者がその治療(認知行動療法)プログラムを治療者のガイドを受けながら取り組むという治療アプローチである。予約の必要性はなく、患者のタイミングでログインできる。治療者と患者とのやり取りは、チャットやメールで行う。

今回のランダム化比較試験は、スウェーデンのリンショーピング大学の協力を得て、2022年8月から2024年10月まで、日本国内の6つの大学病院と1ナショナルセンター(福井大学、鹿児島大学、東北大学、千葉大学、徳島大学、獨協医科大学埼玉医療センター、国立精神・神経医療研究センター)で実施した。対象は、DSM-5で神経性過食症と診断され、Body Mass Indexが17.5以上、インターネット環境があり、過去2年間に同様の治療を受けていない13~65歳の女性である。合計61人が本臨床試験に参加し、治療者誘導型オンライン認知行動療法を加えたグループ(31人)と、通常治療のみのグループ(30人)に分かれた。平均年齢は27.8歳、平均BMIは21.1、平均病歴は9.3年で、約半数が就業者である。

結果、治療者誘導型オンライン認知行動療法を受けたグループでは、通常治療のみのグループに比べ、過食や代償行動の合計頻度の減少が統計的に有意に大きく(平均約10回減少)、重症度の改善が確認された。さらに、寛解率も統計的に有意に高くなった(約45~55%vs.約13%)。

自宅で専門治療を受けられる、新たな治療選択肢に

今回の研究成果により、外来診療中の神経性過食症の女性に治療者誘導型オンライン認知行動療法を提供することで、重症度が改善すること、そして寛解者が増えることが示唆された。この治療法は自宅で専門的な治療を受けることができる新しい選択肢として、今後の活用が期待される。「より幅広い患者への対応や長期的な効果の確認を進めていき、地域による専門治療提供の障壁を取り除き、誰もが適切な治療を受けることのできる社会を目指していく」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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