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喘息、5種の症状サブタイプをAIで特定-山口大

読了時間:約 2分55秒
2025年08月28日 AM09:10

治療標的のTreatable traits評価には専門検査機器が必要

山口大学は8月22日、人工知能(AI)の一種である教師なし機械学習を用い、喘息患者の簡便な症状アンケート(PRO)を詳細に解析することで、これまで人の目では識別が困難だった5種類の症状サブタイプが存在することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科呼吸器・感染症内科学講座の濱田和希助教、松永和人教授、AIシステム医学・医療研究教育センターの浅井義之教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Allergology International」に掲載されている。


画像はリリースより
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喘息は、全世界で3億3900万人以上、日本国内で1000万人の患者が罹患している身近な疾患だ。その症状や病態は患者ごとに大きく異なっているため、それぞれの病態や特性に合わせた個別化医療を行うことが重要である。そのためには、喘息患者において、治療標的となる特性であるTreatable traits(2型気道炎症、気流制限、頻回増悪リスクなど)を特定する必要がある。しかし、これらの特性を客観的に評価するためには呼吸機能検査や呼気一酸化窒素濃度測定などの専門的な検査機器が必要であり、医療資源が限られた地域(へき地や低中所得国など)の医療機関においては特に評価が困難な状況にある。これは、グローバルな医療格差を生み出し、世界中の多くの喘息患者において疾病負荷(生活の質の低下および入院率・死亡率の上昇)をもたらす要因となっている

気流制限/2型気道炎症/頻回増悪リスクと関連で、5種の喘息症状サブタイプ特定

今回の研究では、山口県の29か所の医療施設における観察研究(Subjective Evaluation of Asthma CONtrol survey)に参加した1,697人の喘息患者の症状アンケート(ACQ-5)に対し、AI解析手法の一種である教師なし機械学習(階層的クラスタリング手法のWard法および次元削減手法のUMAP)を適用した。これによって、喘息患者における複雑かつ多様な症状パターンが可視化され、5種類の症状サブタイプを特定することに成功した。

さらに同定したそれぞれの症状サブタイプは、それぞれTreatable traitsと関連していることが判明。症状クラスター1は有意なTreatable traitsなし、症状クラスター2は軽度の気流制限、症状クラスター3は気流制限、症状クラスター4は2型気道炎症、症状クラスター5は気流制限、2型気道炎症、頻回増悪リスクと関連していた。なお、気流制限は呼吸機能検査の測定項目である1秒量対標準予測値、2型気道炎症は呼気一酸化窒素濃度測定によって評価した。

従来「コントロール不良」とされていた喘息患者の症状サブタイプも判別

従来、ACQ-5は5項目の症状スコアの平均値によって評価され、ACQ-5平均値が1.5点以上の喘息患者は一律に「コントロール不良」とみなされていた。一方、同研究では、ACQ-5の各5項目を用いた教師なし機械学習によって、従来のACQ-5平均値の評価では同じように「コントロール不良」と評価されていた喘息患者が3種類の症状サブタイプ(症状クラスター3:息切れと喘鳴が優位、症状クラスター4:起床時症状と夜間覚醒症状が優位、症状クラスター5:すべての症状が重度)に判別され、かつ各々が異なるTreatable traitsを有していた点は重要である。この知見を臨床に応用することで、各々の症状サブタイプに最適な個別化治療を支援でき、不必要な副作用リスク回避や限られた医療資源の効率的活用につながる。

山口大病院の電子カルテに実装、有用性を確認中

これらの解析結果は、山口大学医学部附属病院呼吸器・感染症内科に通院中の157人の喘息患者を対象とした「外部検証コホート」でも再現性が確認された。さらに、この研究結果を臨床現場に適用するため、実用化システムを開発し、山口大学医学部附属病院の電子カルテに実装。現在、実際の喘息患者において、その有用性を確認している。

今回の研究で開発したデジタルヘルス技術は、簡便なPROデータ(ACQ-5)のみに基づくため、呼吸機能検査や呼気一酸化窒素濃度測定が困難な、医療資源が限られた施設(低中所得国やへき地などの医療機関)においても個別化治療の推進を可能にする。これによって、喘息の個別化医療を、これまでアクセスが難しかった医療施設にも拡大し、より多くの喘息患者の医療の質の向上に貢献する。ひいては、喘息におけるグローバルな医療格差の是正につながる。同時に、PROデータにAIを適用したデジタルヘルス技術の初の実用例として、他の医療分野への応用が期待される、と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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