医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 腹鳴ホルモン「モチリン」の摂食促進作用、モデル動物で実証-埼玉大ほか

腹鳴ホルモン「モチリン」の摂食促進作用、モデル動物で実証-埼玉大ほか

読了時間:約 2分1秒
2025年08月04日 AM09:00

消化管ホルモン「モチリン」、摂食への影響は不明だった

埼玉大学は7月8日、小型哺乳類スンクス(ジャコウネズミ)を用いた実験で、上部小腸から分泌されるペプチドホルモン「モチリン」が摂食を刺激することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院理工学研究科生体制御学プログラムの坂田一郎教授、金谷萌子助教、同大の坂井貴文学長、同大大学院理工学研究科のJin Huang氏(博士後期課程学生)、渡邊あゆみ氏、五味彩乃氏、横山遥香氏、石井日翔里氏、中村友亮氏(以上、博士前期課程学生)らの研究グループと、富山大学学術研究部理学系の今野紀文講師、自治医科大学医学部薬理学講座分子薬理学部門の東森生講師、グランソール免疫研究所の海谷啓之博士の共同研究によるもの。研究成果は、「The Proceedings of the National Academy of Sciences」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

モチリンは1970年代に同定された22アミノ酸残基から成るペプチドホルモンで、主に十二指腸から産生・分泌される。モチリンは空腹時に胃の強収縮を誘導し、この収縮によって腹鳴が生じると考えられている。

ヒトは腹鳴時に空腹感を覚えるが、モチリンが実際に摂食を促進するかどうかは、これまで明らかにされていなかった。

モチリンの摂食調節作用をスンクスを用いて検証

今回の研究では、モデル動物として「スンクス」を用いた。スンクスはジャコウネズミ属に位置する小型哺乳動物で、げっ歯類では偽遺伝子化しているモチリンを産生する。

実験では、スンクスにモチリンを投与した時の胃収縮運動および摂食量を測定した。また、モチリン受容体アンタゴニストを投与した際の摂食量の変化も評価した。加えて、モチリンの作用経路を解明するために迷走神経切除術を実施し、脳内の作用部位について免疫組織化学的手法を用いて検討した。

モチリンは迷走神経を介して摂食を促進

空腹時、胃では伝播性収縮運動(MMC)という周期的な収縮運動が起こる。MMCの強い収縮が起こる「第3相」では、モチリン量が増加し、そのタイミングで摂食量も増えることがわかった。また、モチリンを静脈投与すると、強い収縮が起きていないタイミングでも摂食量が増加した。

モチリンの働きを脳に伝える「迷走神経」を切除したスンクスでは、モチリンを投与しても摂食量は増加しなかった。このことから、モチリンの作用が迷走神経を介していることが示された。

さらに、モチリンは延髄や視床下部にある神経細胞を活性化していることが確認された。特に、空腹や食欲に関係する「カテコールアミン」や「ニューロペプチドY」を分泌する神経細胞で反応が見られた。

モチリンを標的とした摂食促進薬の開発に期待

従来は、モチリンと同じファミリーのペプチドである「グレリン」が、唯一の末梢由来の摂食促進ペプチドであると考えられてきた。しかし、今回の研究により、末梢から分泌されるモチリンにも摂食促進作用があることが明らかになった。このことから、モチリンを介した新たな脳腸相関の存在が示された。

「本研究で得られた知見は、消化管機能と摂食行動の機能連関という観点から、新たな創薬開発への応用が期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

同じカテゴリーの記事 医療

  • スマホゲームの依存対策、数秒の待ち時間と視覚刺激の低減が有効-九大
  • OSA患者のRRLMs頻度、重症度や死亡リスクと関連-埼玉県立大ほか
  • 高齢者の声の若々しさ、心の健康や社会的交流と関連-都長寿研
  • 原発閉塞隅角緑内障、134のリスク遺伝子領域を新たに同定-京都府医大ほか
  • 筋トレ前の高カカオチョコレート摂取、動脈スティフネス低下に有効-明治ほか