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人工関節全置換術でのステロイド使用、感染リスクわずかに上昇-横浜市大ほか

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2025年05月27日 AM09:20

TKA術後ステロイド使用による感染リスク、評価研究が不足

横浜市立大学は5月14日、日本全国のDPC(Diagnosis Procedure Combination)データを用いて人工関節全置換術(TKA)におけるステロイドの使用に関する安全性について評価し、ステロイドの使用により術後感染のリスクがわずかに高まることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の栗原信吾氏(博士後期課程1年、まつだ整形外科クリニック医師)、市田親正氏(博士後期課程2年、湘南鎌倉総合病院消化器病センター部長)、清水沙友里講師、後藤匡啓教授、群馬中央病院膝スポーツ人工関節センター副センター長の畑山和久医師、東京科学大学大学院医療政策情報学分野の伏見清秀教授らの研究グループによるもの。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

TKAは膝の軟骨がすり減って起こる変形性膝関節症などの疾患に対し、痛みの軽減や歩行機能の改善に有用で、世界的に広く普及している手術である。TKAの手術は強い痛みを伴うため、近年では術後の痛みの軽減を目的にステロイドが使用されるようになった。ステロイドの使用により、術後の痛みや腫れの軽減、鎮痛剤の使用量の減少、早期のリハビリ、入院期間の短縮などのメリットが報告されている。

一方で、ステロイドは免疫を抑制する作用があることから、術後の感染のリスクも懸念されている。TKAの術後に感染が起きると、洗浄や人工関節の入れ替えなどの再手術が必要となり、治療には患者と医療者の双方に大きな負担がかかる。TKAの術後感染の発生率は1%程度と低いため、十分な数の症例を集めることが難しく、これまでステロイド使用による感染リスクを正確に評価した研究が不足していた。

24万件超TKA対象、ステロイド使用群/対照群で比較

今回の研究では、2016~2022年の全国DPCデータを用いて、TKAを受けた24万2,571例を対象に解析を行った。今回は除痛効果が強いと報告されているステロイドの一種トリアムシノロンに焦点を当てた。全症例のうち7.2%でトリアムシノロンが使用され(ステロイド使用群)、92.8%ではトリアムシノロンが使用されなかった(対照群)。

ステロイド使用群は感染再手術0.15%上昇、喫煙歴などでリスク高

解析の結果、ステロイド使用群では対照群と比較して、感染による再手術の発生率が0.15%上昇した(ステロイド使用群:0.40%、対照群:0.25%)。また、感染の診断率については0.71%の上昇が見られた(ステロイド使用群:2.9%、対照群:2.2%)。

患者の背景を揃える統計手法(傾向スコアマッチング)を用いた分析でも、感染による再手術の発生率の差は0.16%と同様の結果であった。また、ステロイド使用群の中で術後感染のリスクが高かったのは、喫煙歴がある者、複数の持病がある者、日常生活動作に介助が必要な者であった。

ステロイド使用を全面的に控えるべきとは言えないが、リスク因子あり患者では注意を

今回の研究成果により、ステロイドの使用により感染率が上昇していたものの、その差はごくわずかであることが示された。これまでに報告されたステロイド使用の痛みの軽減などのメリットを考慮すると、ステロイドの使用を全面的に控えるべきとは言えないが、特にリスク因子を持つ患者では感染に十分注意を払う必要がある。この研究により、これまでデータが不足していたTKAにおけるステロイド使用の安全性について、重要な判断材料が医療現場に提供された、と研究グループは述べている。

 

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