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自由に空を飛ぶVR体験で「高所恐怖症」軽減の可能性-NICT

読了時間:約 2分31秒
2025年05月27日 AM09:10

高所に対する生理的・主観的恐怖反応をVRの中での自由な飛行体験で軽減?

)は5月14日、VRで自ら飛ぶ体験をした人は、「落下しても飛べる」と予測し高所恐怖が低減されることを明らかにしたと発表した。この研究は、NICT未来ICT研究所 脳情報通信融合研究センター(CiNet)の藤野美沙子協力研究員および春野雅彦室長の研究グループによるもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載されている。


画像はリリースより
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ヒトが恐怖を克服するメカニズムとして、従来は「恐怖を引き起こす状況を繰り返し体験(曝露)することで、この状況は危険ではないという記憶を学習していく」方法が主流だった。しかし、「自分が行動すれば安全な状態に移行できる」と予測することも、恐怖を和らげる手段になる可能性がある。

そこで研究グループは今回、VRの中での自由な飛行体験によって「落ちても飛べる」という「行動ベースの予測」を獲得できることに着目し、恐怖感情の生理的・主観的な反応の変化を検証した。

生理的恐怖反応は「発汗量」、主観的恐怖反応は「主観的恐怖スコア」で計測

VR実験には、高所恐怖症傾向のある人が参加。参加者はVRの体に慣れるための仮想身体所有感タスクを行った後、VRで地上300mの高さにある板の上を板の先端まで歩く課題(高所歩行タスク、1回目)を行った。高所歩行タスク中の参加者の生理的恐怖反応は、参加者の指に貼付した電極から得られた発汗の量を皮膚電気抵抗(SCR)として計測し、主観的恐怖反応は参加者が回答した11段階の恐怖レベルの主観的恐怖スコア(SFS)で計測した。

飛行群は2度目のSCR・SFC低下「大」、異なる参加者でも同様

次に、ランダムに飛行群とコントロール群に分けて次のタスクを行った。飛行群は、自分でコントローラーを操作しながらVR空間を自由に7分間低空飛行(高さへの慣れを防ぐため地上5m以下の高さ)する飛行タスクを実施、コントロール群は、飛行群の参加者のVR飛行映像を視聴(録画された動画を受動的に視聴)する視聴タスクを実施した。両群はその後、高所歩行タスクの2回目を行い、再びSCRとSFSを計測した。

SCRについて、高所歩行タスク1回目と2回目のSCRの差を解析した結果、両群とも1回目より2回目のスコアは下がったが、飛行群はコントロール群に比べ2度目のSCRの低下が大きいことが判明した。

同様に、SFSについても1回目と2回目の差を飛行群とコントロール群で比較した。その結果、両群とも1回目より2回目のスコアは下がったが、飛行群ではコントロール群に比べ2回目のSFSの低下が大きいことが明らかになった。これら一連の実験は、異なる参加者で2回実施された。

安全予測スコアが、SCR減少量に関連

以上の結果から、低空であっても自分でアバターを操作して自由に飛行するという体験が高所恐怖反応の減少に寄与することが示された。また、飛行群の参加者が「仮に落ちたとしても、自分の行動により安全な状態に移行できる」と予測しており、そのために恐怖反応が減少した可能性を示している。

最後に、この仮説をさらに検証するため、実験後に行ったアンケートのスコアを用いて生理的恐怖の減少量の回帰分析を行ったところ、「自分は飛行できるので落下しても危険ではないと2回目の高所歩行タスク時に感じた程度(安全予測スコア)」が、飛行群の恐怖反応の低下(SCR減少量)に関わることが明らかになった。

「行動ベースの予測が恐怖を消去する」という新規メカニズムとなる可能性

今回の研究により、「自分の行動により安全な状態に移行できるという予測」が、恐怖を消去する新たなメカニズムとなる可能性が示された。これは、従来の繰り返し曝露に基づく恐怖消去とは異なる、行動ベースの予測に基づく恐怖消去として今後の発展につながる。「今後は、今回の成果の高所恐怖症に対する現実世界での長期的な効果を明らかにすることで、VRを用いた実際の治療や支援への応用が期待される」と、研究グループは述べている。

 

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