セロトニン産生酵素Tph1、脂肪肝との関連も報告されている
東北大学は5月9日、セロトニン産生酵素であるトリプトファンハイドロキシラーゼ1(Tph1)が必須アミノ酸のトリプトファンと血糖値を制御することを発見したと発表した。この研究は、同大先端量子ビーム科学研究センターの野々垣勝則教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Molecular Sciences」のオンライン版に掲載されている。

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必須アミノ酸であるトリプトファンは、体内で合成されないため、食事から摂取される。摂取されたトリプトファンは、3つの経路を介して、セロトニン、キヌレニン、インドールプロピオン酸に代謝される。
トリプトファンハイドロキシラーゼ(Tph)は、トリプトファンからセロトニンを産生させる酵素として知られている。Tphには、末梢に存在するTph1と、中枢に存在するTph2の2つのサブタイプがあり、Tph1は末梢のセロトニンを、Tph2は脳内のセロトニンを産生する。これまでにTph1の遺伝子学的または薬理学的抑制は、高脂肪食による脂肪性肝疾患を抑制することが報告されている。
Tph1は末梢および脳内のトリプトファンとその代謝物量を制御する
今回の研究では、Tph1遺伝子を欠損させたマウスでは、血中のセロトニン濃度が顕著に低下するだけでなく、血中トリプトファン濃度が低下し、キヌレニンやインドールプロピオン酸の代謝経路の代謝産物も低下することを発見した。
また、Tph1欠損マウスの脳内では、トリプトファンとセロトニンを含めたトリプトファン代謝物量に軽度の低下が見られた。このトリプトファンとセロトニン以外のキヌレニン、インドールプロピオン酸の代謝経路の代謝物の低下は、加齢によって減弱していた。
Tph1欠損マウスは血糖値低下を示す
さらに、若齢期のTph1欠損マウスでは摂食量が増え、血中FGF21濃度が低下することを見出した。一方、中年期では摂食量が減り、血中FGF21濃度は増加した。
こうした年齢による摂食量の変化やインスリン分泌とは無関係に、Tph1欠損マウスの血糖値は野生型マウスに比べて低いことがわかった。
糖尿病や肥満に対する新たな健康食品・治療薬の開発に期待
今回の研究によって、必須アミノ酸であるトリプトファンとその代謝物の血中濃度と脳内含量がTph1によって制御されていることが明らかになった。また、Tph1欠損マウスの表現型からTph1は脳内でもトリプトファンとその代謝産物を制御し、血糖値の制御にも寄与していることが示唆された。
「Tph1やトリプトファンとその代謝物を標的した糖尿病や肥満の予防・治療に有用な新たな健康食品の開発や創薬が期待される」と、研究グループは述べている。
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