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アキレス腱損傷、腱の再生に重要なPI3K-Aktシグナル発見-岐阜大ほか

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2025年05月21日 AM09:30

加齢に伴い減弱する腱の再生能力、損傷後に健常な状態へ再生することは困難

岐阜大学は5月2日、腱の再生に関わる重要なシグナル伝達経路であるPI3K-Aktシグナルを発見したと発表した。この研究は、同大整形外科の後藤篤史氏(現 山内ホスピタル)、河村真吾特任講師、秋山治彦教授、東京大学分子病理学分野の山田泰広教授、東京大学医科学研究所システム疾患モデル研究センターの小沢学准教授、田口純平特任助教、愛媛大学プロテオサイエンスセンターの今井祐記教授、東京科学大学システム発生・再生医学分野の淺原弘嗣教授、松島隆英助教、東京科学大学生体材料工学研究所の岸田晶夫教授、東洋大学生命科学部生体医工学科の木村剛教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
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高齢者やスポーツ人口の増加に伴い、運動器疾患を有する患者は増加している。中でも腱疾患(腱損傷や腱炎・腱鞘炎)は運動器疾患の約30%を占めるcommon diseaseだ。腱は再生能力が低いという特徴があり、損傷した腱の修復には年単位を要し、生理学的に健常な腱の状態へ再生することは困難と言われている。

研究グループは、日々の診療において、成人・高齢者の腱損傷と比較して、小児の腱損傷においては治癒期間も短く、再断裂や癒着を来しにくいことを経験している。つまり、腱には生来再生能力が備わっているものの、それは加齢に伴い減弱、消失すると考えられる。

アキレス腱損傷モデル解析により再生部位で活性化するPI3K-Aktシグナル同定

そこで研究グループは、加齢に伴い変化する腱再生能力を規定する分子制御機構を解明することで、治療に難渋する成人・高齢者の腱疾患に対して生理的腱再生を誘導する新規治療法開発の足掛かりになると考えた。

若齢マウス(生後7日齢)と高齢マウス(生後6か月齢)のアキレス腱損傷モデルを作製し、再生腱のRNAシーケンス、ウエスタンブロット解析を行った。若齢マウスのアキレス腱再生部位でPI3K-Aktシグナルが特異的に活性化することを同定した。

若齢マウスアキレス腱再生に寄与する細胞判明

腱細胞特異的遺伝子組み換えマウス(Scx-CreERT2/Rosa26-LSL-tdTomato)、腱滑膜細胞特異的遺伝子改変マウス(Tppp3-CreERT2/Rosa26-LSL-tdTomato)を使用して、若齢マウスのアキレス腱損傷後の再生起源細胞を解析した。その結果、Scxlineage腱細胞とTppp3-lineage腱滑膜細胞が腱再生に寄与していた。なかでもTppp3-lineage腱滑膜細胞が主要なアキレス腱再生の細胞源だった。

PI3K-Akt阻害で細胞増殖能・遊走能・自己複製能低下、若齢マウス歩行能力低下も確認

PI3K-Aktシグナルが腱細胞と腱滑膜細胞に与える影響をin vitroで解析した。ラットアキレス腱由来腱細胞および腱滑膜細胞にPI3K-Aktシグナル阻害剤()を投与した結果、細胞増殖能、細胞遊走能、自己複製能が低下した。一方で、成熟腱細胞への分化が促進した。

続いてPI3K-Aktシグナルがアキレス腱再生に与える影響をin vivoで解析した。若齢マウスのアキレス腱断裂モデルに対してZSTK474を投与した結果、再生腱の菲薄化と力学的強度の低下および歩行能力の低下が認められた。

Tppp3-lineage腱滑膜細胞特異的なPI3K-Aktシグナル抑制による再生腱菲薄化を確認

さらにアキレス腱再生時にPI3K-Aktシグナルが腱細胞と腱滑膜細胞に与える影響を解析した。PI3K-Aktシグナルの負の制御因子であるPtenの細胞種特異的過剰発現マウス(Scx-CreERT2/Rosa26-LSL-PtenおよびTppp3-CreERT2/Rosa26-LSL-Pten)を使用してアキレス腱再生を解析した結果、Scx-lineage腱細胞とTppp3-lineage腱滑膜細胞の双方において細胞増殖能および再生腱内への細胞遊走能が低下した。腱再生の主要な細胞源であるTppp3-lineage腱滑膜細胞でのPI3K-Aktシグナルの抑制によって再生腱の菲薄化が認められた。

PI3K-Aktシグナルによる腱再生制御、新規治療法開発につながる可能性

以上の結果より、PI3K-Aktシグナルは腱再生の細胞源である腱細胞(Scx+細胞)と腱滑膜細胞(Tppp3+細胞)の細胞増殖能、細胞遊走能、幹細胞性を制御する重要なシグナル伝達経路であることが明らかとなった。

今回の研究では、若齢マウスにおいて生理的腱再生を制御するPI3K-Aktシグナルを同定した。「今後、高齢マウスにおいてPI3K-Aktシグナル活性化による腱再生促進効果を詳細に検証することで、成人・高齢者の腱再生治療の開発につなげたいと考えている」と、研究グループは述べている。

 

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