病因遺伝子研究進む遺伝性角化症、発症機序などに基づく新たな疾患命名法が求められる
名古屋大学は5月7日、遺伝的な表皮の分化障害による疾患の国際病名を包括的かつ抜本的に改訂、従来の「魚鱗癬」や「掌蹠角化症」などの病名をすべて廃し、魚鱗癬以外の多くの疾患も含めて、表皮の分化障害による疾患全体を「表皮分化疾患(Epidermal Differentiation Disorder;EDD)」と命名したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科皮膚科学の秋山真志教授らと、世界各国から集まった遺伝性角化症のエキスパートと患者会の代表から成るReclassifying Epidermal Differentiation Disorders Initiative(REDDI)タスク・フォースの研究グループによるもの。研究成果は、「British Journal of Dermatology」にオンライン掲載されている。

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遺伝性角化症は、遺伝的な病因による表皮の分化の障害のために、白色調から褐色、黒色調の角質の堆積を広範囲、あるいは、一部の皮膚に認める一連の疾患群である。近年、これらの疾患の病因遺伝子バリアントの解明は、大きな進歩を遂げてきた。また、それらの遺伝子バリアントによる表現型の形成機序の解明も進んでいる。
多くの皮膚疾患では、発症機序に関する理解が進んだことで、生物学的製剤や低分子の分子標的薬、遺伝子治療に至るまで、新たな治療法が開発されてきた。遺伝性角化症についても、病因遺伝子産物の機能に基づいて疾患を分類することで、新たな標的療法への道が開かれる可能性が出てきた。しかし、遺伝性角化症の命名法は依然として非常に多様で、多数の異名や誤称があり、十分に、発症機序、病態に基づいて分類されているとは言えず、治療法開発に十分役立っているとは言えない。そこで、新たに明らかになった病因や病態についての知見を反映した、遺伝性角化症の国際病名、病型分類の見直しが希求されていた。
表皮の分化障害によるすべての疾患を「表皮分化疾患(EDD)」と命名
REDDIは、3年前から病因や病態についての新たな知見を反映した遺伝性角化症の国際病名および病型分類の改訂に取り組んできた。今回の改訂では、従来の遺伝性角化症より広い範囲の表皮の分化障害によるすべての疾患を「表皮分化疾患(EDD)」と命名し、すべてのEDDを包括する新分類、病名システムでは、EDDは病変が皮膚に限定される非症候性EDD(nonsyndromic EDD;nEDD)、皮膚以外の臓器にも症状が見られる症候性EDD(syndromic EDD;sEDD)、主に手掌足底に病変のある掌蹠EDD(palmoplantar EDD;pEDD)に分けられた。
新病名は病因遺伝子に基づいて命名、「道化師様」などの用語を完全に排除
研究グループは、病名改訂についてすでに、全体展望論文、sEDDの論文、pEDDの論文を発表しているが、今回、従来の魚鱗癬などのEDDの重要な疾患を多く含むnEDDに関する論文を発表した。nEDDは53種類あり、従来の魚鱗癬、汗孔角化症、ヘイリー・ヘイリー病、ダリエ病などが含まれる。
新病名は病因遺伝子に基づいて命名されている(例:FLG-nEDD(旧病名、尋常性魚鱗癬)、ABCA12-nEDD(旧病名、道化師様魚鱗癬など))。今回の新病名では、「魚鱗癬」や「道化師様」などの患者や家族にとって不快と思われる用語や、人名に由来する病名を完全に排除した。
疾患の病因・病態の理解、より適確な治療提供につながると期待
さらに、この病因分子の機能による分類と病因遺伝子を含む新病名によって、患者は自身の疾患の病因や病態をよりよく理解できるようになり、また、医療従事者はより適確な治療を提供できるようになることが期待される。
病因分子の機能と関連経路によるnEDDの分類と各疾患の病因遺伝子の明確化は、新規治療法の開発と、他の疾患のために開発された薬剤のrepurposingにつながることが期待できる。「遺伝子検査ができない国や地域の患者は、当面、未特定nEDD(unspecified nEDD)と診断されることになるが、今回の病名改訂が、遺伝子検査ができない国や地域をなくす端緒となることを願っている」と、研究グループは述べている。
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