超高齢者に対する大腸ESDの安全性を、DPCデータで大規模・体系的に検討
横浜市立大学は4月25日、急性期入院医療における診療の実態を把握することを目的に、診断群分類に基づいて厚生労働省へ提出される全国規模の医療情報データベース「DPCデータ」を用いて大腸内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の安全性を年齢別に評価し、85歳以上の超高齢者では有害事象リスクが有意に高まることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の市田親正医師(博士後期課程2年、湘南鎌倉総合病院 消化器病センター部長)、同専攻の清水沙友里講師、後藤匡啓教授、湘南鎌倉総合病院 消化器病センター部長の佐々木亜希子医師、東京科学大学 大学院医療政策情報学分野の伏見清秀教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The American Journal of Gastroenterology」にオンライン公開されている。

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大腸ESDは、早期大腸がんに対する根治的切除を可能とする内視鏡治療として広く普及している。高度な技術を要する一方で、術後出血や穿孔などの有害事象のリスクも伴う。近年、高齢化社会の進行により、85歳以上の超高齢者に対してもESDを実施する機会が急速に増加しているが、この年齢層に対する安全性については従来の研究では症例数が限られており、十分なデータが存在していなかった。
このため、臨床現場では、医療者が患者や家族に対してリスクを正確に伝えることが困難であり、特に85歳以上の超高齢者における術前説明には明確な根拠を提示できない状況が続いていた。今回の研究では、全国DPCデータを用いることで約8,300人の85歳以上の患者を含む大規模な解析が可能となった。これまでの国内外の研究がいずれも100例未満の小規模検討にとどまっていた中で、超高齢者に対する大腸ESDの安全性を対象とした解析としては、極めて大規模かつ体系的な検討を初めて実施した。
年齢とともに大腸ESDの全有害事象増、特に「術後出血」のリスク大
研究グループは、2012~2023年の全国DPCデータを用いて、60歳以上の大腸ESD 14万3,925例を対象に解析を行った。年齢とともに全有害事象(院内死亡、穿孔、外科手術介入、誤嚥性肺炎、術後出血、血栓塞栓症)の頻度は増加し、60~64歳で5.3%、85~89歳で7.9%、90歳以上では9.2%に達した。特に術後出血の頻度は高齢になるほど増加し、60~64歳では2.2%だったのに対し、90歳以上では6.6%であった。
多変量ロジスティック回帰解析の結果でも、60~64歳を基準とした場合、85~89歳では全有害事象の調整オッズ比は1.19(95%信頼区間: 1.07–1.33)、90歳以上では1.45(1.16–1.80)と有意に高い値を示した。特に術後出血リスクが大きく、抗凝固薬の使用有無や肥満度を表す体格指数(BMI値)が30以上であることが強く関連した。これらの所見は、治療前のリスク評価と患者への十分な説明の重要性を示している。
リスク評価指標の開発や、出血ハイリスク患者の術式選択・予防的対応最適化を目指す
今回の研究により、超高齢者における大腸ESDの有害事象リスク、特に術後出血のリスクが年齢とともに増加することが明らかとなった。これにより、これまで十分なデータがなく困難であった超高齢者への術前説明を、科学的根拠に基づいて行うことが可能となる。
「今後は、本研究結果をふまえたリスク評価指標の開発や、出血ハイリスク患者に対する術式選択・予防的対応(潰瘍閉鎖など)の最適化を進めることで、より安全な医療の実現が期待される」と、研究グループは述べている。
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