HPVワクチン、接種勧奨介入を強化すべき集団・地域の特徴は?
大阪医科薬科大学は4月24日、大阪市の約1,900の町丁字の地域別のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン累積接種割合を分析し、地域の社会経済指標が高く、近隣のHPVワクチン接種ができる医療機関数が多いほど接種割合が高いことを日本で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部 医療統計学研究室の岡愛実子氏、伊藤ゆり氏と、大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室、国立がん研究センターがん対策研究所データサイエンス研究部、東北大学大学院環境科学研究科、大阪市健康局健康推進部健康づくり課との共同研究によるもの。研究成果は、「JAMA Network Open」にオンライン掲載されている。

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子宮頸がんは女性のがんで4番目に多いがんであり、その原因の90%以上がHPVへの感染が原因であることが明らかとなっている。また、子宮頸がんの罹患のピークは上皮内がんも含めると30代、と若年に多いがんであり、早期発見できたとしても子宮摘出を余儀なくされる可能性がある。HPVワクチンは88%の子宮頸がん予防効果が示されており、世界では15歳までに90%の女性がHPVワクチンの接種を完了することを目標とし、先進国のいくつかの国ではすでにこの目標を達成している国もある。しかし、日本では、2013年6月~2022年3月の間、積極的勧奨の差し控えがあったことから、出生年度によってはHPVワクチンの接種割合は1%未満と、世界から取り残されているのが現状だ。
HPVワクチンの接種勧奨は接種対象者が居住する地域ごとに行われることが多く、その勧奨方法は地域によってさまざまだ。また、接種割合が低い集団に対しては、学校での接種や対象者が集まる場所での集団接種など地域ベースでの介入が効果的であり、加えて、医療者から対象者への教育などの他の施策と組み合わせて行うことが接種促進には有効であることが知られている。介入を強化すべき集団や地域の特徴を把握することは接種勧奨を行う自治体が有効な施策を検討する際に役立つ。
そこで研究グループは今回、大阪市が管理しているHPVワクチン接種状況データを用いて、町丁字単位でHPVワクチン累積接種割合を分析し、町丁字単位の社会経済的状況・HPVワクチンへのアクセスとの関係を明らかにすることを目的とした。
最も接種率が高いのは困窮度が低く近隣接種機関数が多い地域、困窮な地域は接種率低
まず、町丁字単位の社会経済指標として、東北大学の中谷友樹教授が作成した地理的剥奪指標、HPVワクチンへのアクセスの指標として各町丁字の代表点から500m圏域内にあるHPVワクチン接種実施医療機関の数を使用した。これらの指標を世帯数が同等となる5分位または3分位のグループに分けた。
分析の結果、地域の困窮度が低く、近隣接種機関数が多いほどHPVワクチン累積接種割合は高いことが明らかとなった。さらに、定期接種・キャッチアップ接種別にみると、定期接種では、最も困窮な地域と比べると最も裕福な地域ではHPVワクチン累積接種割合は1.5倍高く、近隣接種機関数が最も少ない地域と比べると最も多い地域ではHPVワクチン累積接種割合は1.1倍高いことが明らかとなった。
HPVワクチン接種の促進・格差縮小には「社会環境要因」に着目したアプローチが重要
これらのことから、困窮度や医療機関へのアクセスに関する地域指標によるHPVワクチン接種状況の格差が明らかとなった。これにより、自治体におけるHPVワクチン接種の促進や格差縮小のためには、社会環境要因に着目したアプローチが必要であることが示唆された。
「本研究の結果から、困窮度が高い地域や接種機関が少ない地域では、HPVワクチン接種への介入の強化が必要であると考えられる。HPVワクチン接種の施策立案に際しては、実際に介入が行われる地理単位に着目し、地域の社会経済状況や接種へのアクセスの視点で評価することが求められる。従来行われている個別の接種案内の送付や個別医療機関での接種に加え、社会環境面の影響を鑑みたアプローチも重要だ」と、研究グループは述べている。
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