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糖尿病の新規治療につながる、アクチビンBによる糖代謝制御機構を解明-JIHSほか

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2025年05月07日 AM09:10

複数の病態が複雑に絡み合う2型糖尿病、単剤で十分な効果のある治療薬は未開発

(JIHS)は4月24日、TGFβスーパーファミリーのひとつであるアクチビンBが肝類洞内皮細胞において産生され、全身の糖・エネルギー代謝を制御することを発見したと発表した。この研究は、同研究所糖尿病研究センターの植木浩二郎センター長、分子糖尿病医学研究部の小林直樹上級研究員、東京大学大学院医学系研究科の山内敏正教授、門脇孝東京大学名誉教授、ドイツ・ライプツィヒ大学のMatthias Blüher教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

糖尿病は全世界で約5億4000万人が罹患しており、適切な治療が行われない場合、合併症の進行によって寿命の短縮やQOL(生活の質)の低下を引き起こす。中でも大多数を占める2型糖尿病は、膵β細胞からのインスリン分泌の低下(インスリン分泌不全)、骨格筋や肝臓などにおけるインスリンの作用の低下()など複数の病態が複雑に絡み合っている。これらに対処するため近年さまざまな治療薬が開発されているが、単剤では十分な治療効果を得るのは難しく、重症化する例がしばしば認められる。

肥満で増加の分子としてFSTL3を同定、アクチビン阻害を介し代謝制御する可能性

研究グループは、これら複数の病態の「根本的な上流因子」が存在する可能性を念頭に、しばしば糖尿病発症のきっかけになる軽度の肥満から発現が上昇する分子を、ヒト脂肪組織検体を用いた網羅的な遺伝子発現解析により探索した。その結果、TGF-βスーパーファミリーの拮抗因子として知られるFSTL3(Follistatin-like 3)が肥満で有意に増加しており、これはアクチビン分子の機能阻害を通じて代謝制御に影響する可能性があると考えられた。

肥満マウスモデル、アクチビンB過剰発現で耐糖能やインスリン感受性が改善

そこで、マウスにおいてアクチビンサブユニット(Inhba、Inhbb、Inhbc、Inhbe)の発現を解析したところ、Inhbb遺伝子は絶食時やケトジェニック食摂取時に肝臓、中でも肝類洞内皮細胞で顕著に発現増加しており、代謝調節に関与する可能性が示された。Inhbb遺伝子がコードするタンパク質「(Activin B)」の作用を詳細に検討するため、肥満マウスモデルにおいてアクチビンBを過剰発現させたところ、耐糖能の改善、インスリン感受性の向上、さらにはグルコース応答性インスリン分泌の亢進が認められた。長期の観察においては、体重減少を認め、エネルギー消費の増加、褐色脂肪組織の活性化といったエネルギー代謝の改善も確認された。

ヘパトカインFGF21をアクチビンBが誘導しインスリン感受性改善、耐糖能などは別経路

その作用メカニズムを検索した結果、絶食時に肝臓で分泌される代表的なヘパトカインFGF21(Fibroblast Growth Factor 21)が、アクチビンBにより強く誘導されることが判明した。さらにFGF21欠損マウスを用いた検討により、アクチビンBによるインスリン感受性の改善にはFGF21が必要であることが示された。一方で、耐糖能やインスリン分泌の改善効果はFGF21非依存的にも存在することがわかり、アクチビンBには複数の経路による代謝調節作用があると考えられた。

アクチビンBによる肝グルカゴン抵抗性、肝-膵α細胞連関を介してインスリン分泌制御

さらに、インスリン分泌不全の1型糖尿病モデルマウスにおいても、アクチビンBは血糖降下作用を示した。一方で、アクチビンB欠損マウスでは肝糖産生が増加し、インスリン非存在下でも高血糖が悪化していた。これは、アクチビンBが肝臓におけるグルカゴン作用を抑制し、いわゆる「」を誘導するためであることを突き止めた。

さらに注目すべきは、アクチビンBの作用によって血中グルカゴン濃度が上昇する点である。これは、肝グルカゴン抵抗性が膵α細胞からのグルカゴン分泌を促すという「肝-膵α細胞連関」に基づく現象であると考えられた。このグルカゴンの上昇は、膵β細胞上のGLP-1受容体を介してインスリン分泌を促進するという近年報告された経路を通じ、食後血糖のコントロールにも寄与していることが、アミリン誘導体によるグルカゴン分泌阻害実験およびGLP-1受容体阻害実験から示唆された。

FGF21誘導と肝グルカゴン感受性制御を介した二重の作用、新規治療戦略につながると期待

以上の結果から、アクチビンBは糖尿病の主要な病態である空腹時血糖の上昇、インスリン分泌不全、インスリン抵抗性のすべてに作用しうる新たな代謝制御因子であることが示された。特にFGF21の誘導と肝グルカゴン感受性の制御を介した二重の作用は、従来の薬剤では困難だった病態の同時制御を可能にする可能性がある。

「今後は、アクチビンBのシグナルを活性化する薬剤や、阻害因子FSTL3の発現を制御する介入法の開発を通じて、糖尿病および肥満に対する新規治療戦略の構築が期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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