確実で被験者の負担が少ないMCI検査法の開発が必要
国立長寿医療研究センター研究所は4月3日、指タッピング運動を計測したデータから軽度認知障害(MCI)者を高い精度で分類することに成功したと発表した。この研究は、同研究センターとマクセル株式会社、株式会社日立製作所の研究グループによるもの。研究成果は、「Medical & Biological Engineering & Computing」に掲載されている。

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近年、日本をはじめ各国で高齢化が進み、認知症者数は年々増加している。MCIは、認知症と診断される一歩手前の状態を指す。放置すると認知症に進行することが多いが、適切な予防をすることで健常な状態に戻る可能性がある。日本神経学会の「認知症疾患診療ガイドライン2017」によれば、MCIから正常な状態に回復する人の割合は1年で16~41%、MCIから認知症に進行する人の割合は1年で5~15%とされている。
現在、認知症に関する脳画像検査、脳脊髄液・血液バイオマーカーの研究・開発が進んでいるが、被験者への経済的・身体的負担、検査や解析に要する時間などの課題がある。一方、被験者の負担の少ない検査方法として、問診・観察を中心とした神経心理学的検査が多く活用されているが、検査日や時間帯によって結果が変動することが知られている。
指タッピング運動でADやMCIを検出できる
同研究センターと日立製作所は、2016年に「アルツハイマー型認知症(AD)に特有の指タッピング運動パターンの抽出」の研究成果を発表した。その後、マクセルが加わり、2022年には「Finger Tapping Test for Assessing the Risk of Mild Cognitive Impairment」の研究成果を発表し、MCI者の早期発見に向けた臨床研究に取り組んできた。
今回の研究では、2019年にマクセルが製品化した「磁気センサ型指タッピング装置UB-2(非医療機器)」に、新たに日立が開発したAI技術を適用することでMCI者の分類精度の向上を目指した。
AD患者データの併用によってMCI者の分類精度が向上
通常、MCI者を検出するには、MCI者と正常対照(Normal Controls/NC)者のデータを用いて分類モデルを生成する。MCIは、臨床的に認知症の前段階にあり、NCとADの中間的な症状を示す。同様に、指タッピング運動もNC、MCI、ADの順に悪化する傾向がある。そのため、NCとADの分類モデルを生成し、その閾値をNC側に近づけるように調整すれば、MCIを分類することができる。そこで、今回のモデルでは、MCI者のデータに加えて、AD患者のデータも併用することで分類精度を向上させた。
指タッピング運動からMCI者を精度よく検出可能に
スクリーニングでは、左手のみ/右手のみ/両手同時/両手交互の4つのパターンの指タッピング運動を計測した。指タッピング運動では、15秒間、30~40mmの開閉幅を保ちながら、親指と人差し指をできるだけ早く、開閉を繰り返した。計測から得られる指タッピング運動データを今回作成したAIモデルに入力することで、MCI者を分類した。その結果、高い精度で高齢健常者とMCI者を分類することに成功した(F1値0.795、再現率0.778、適合率0.814)。
早期スクリーニング検査の実現に期待
今回の研究では、AD患者と健常高齢者を分類するモデルをAIに取り入れることで、健常高齢者とMCI者を分類しやすくした。この技術により、医療現場だけでなく、高齢者施設や居宅、健康診断や自治体の健康イベントなどさまざまな非医療現場においても、手指の運動を計測するだけで、非侵襲的にMCI者を信頼性高く早期発見することが可能になる。この仕組みが広まれば、健康寿命の延伸、医療費や介護費の削減にも貢献できると考えられる。
「早期スクリーニング検査でMCI者を発見することは、自らの変化に対して早い段階で気づくことにつながり、適切な治療開始に役立つ」と、研究グループは述べている。
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・国立長寿医療研究センター研究所 プレスリリース