喘鳴タイプと肺機能低下、IgE感作との関連を日本の一般小児集団対象で初検討
国立成育医療研究センターは4月24日、同施設で2003年から一般の小児を対象として行ってきた出生コホート研究(成育コホート)の13歳までのデータを解析し、中学生までの喘鳴のタイプが5つあることを明らかにし、それらが肺機能およびIgE感作とどのように関連するかを明らかにしたと発表した。この研究は、同センターアレルギーセンターの山本貴和子氏、福家辰樹氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Allergy and Clinical Immunology:Global」に掲載されている。

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喘鳴は、ぜん息の主要な症状の一つであり、ぜん息は世界的にも克服しなければならない慢性疾患の一つである。過去の欧米の研究では、喘鳴タイプと肺機能の低下、IgE感作の関連性が報告されているが、日本を含めアジアの小児期・思春期集団におけるデータはこれまで検討されていなかった。
同センターの出生コホート研究(成育コホート)では、2003年から2005年に妊娠した母親(1,701人)を登録し、現在に至るまで母親と誕生した子ども(1,550人)を妊娠中から継続的に追跡し、アンケート調査、診察、血液検査により、ぜん息などのアレルギー性疾患や症状、IgE抗体価などを調査している。病気やけがで病院を受診した子どもを調査したのではなく、同センターで生まれた一般集団の子どもを追跡し、健康状態の推移を調査した縦断的研究(前向きコホート研究)である。過去にさかのぼって情報を集めて比較する後ろ向きコホート研究や、現時点のみを調べる横断研究よりもエビデンス・レベルの高い疫学調査である。
そこで研究グループは、日本の出生から思春期までの喘鳴のタイプを明らかにし、それらが肺機能およびIgE感作とどのように関連しているかを明らかにすることを目的に、同コホートデータを解析した。
5タイプに区分、持続性喘鳴は%V25低下・FeNO値上昇/複数のアレルゲンに対する感作増
今回は、出生から13歳までの質問票調査、医師診察、血液検査、肺機能検査(IOSやスパイロメトリー)のデータを使って、潜在クラス成長分析(LCGA)を用いて喘鳴の経過パターンを分類し、分類ごとに肺機能やアレルギー検査結果とどのように関連するか検討した。
その結果、中学生までの小児の5つの喘鳴タイプを日本で初めて特定することに成功した。5つは具体的に「早期発症の一過性喘鳴」「後期発症の一過性喘鳴」「低頻度喘鳴」「持続性喘鳴」「喘鳴なし/稀な喘鳴」。中でも、「持続性喘鳴」タイプは、13歳時点での%V25の低下(ただし、一秒率など他の評価項目は低下なし)や、FeNO(呼気中一酸化炭素濃度)レベルの上昇、複数のアレルゲンに対する感作の増加と関連していることがわかった。一方、他のタイプでは、肺機能の顕著な低下は見られなかった。また、欧米の研究では肺機能の顕著な低下が特徴的であったが、日本の小児における喘鳴タイプでは欧米とは異なる特徴を示した。
欧米と異なる結果、日本では早期の適切な治療で肺機能低下を妨げている可能性
喘鳴はぜん息の特徴的な症状の一つで、欧米では重症ぜん息発作の入院や死亡例が数多く報告されている。一方で、今回の研究では、日本において喘鳴症状を持つ多くの小児では、呼吸機能や気道炎症の予後が良好であり、喘鳴症状が改善されている可能性が示唆された。
日本では歴史的に重症ぜん息の小児が多くいた。小児のぜん息死亡数は1970~2000年頃までは年間100人以上だったが、近年は一桁まで減少しており、日本の小児ぜん息死亡率は世界で最も低い群に属している。同センターにおいても、基礎疾患のない重症ぜん息発作の入院も減少傾向であることを報告している。その理由の一つには、ぜん息の長期管理薬などの大幅な進歩によりぜん息コントロールが改善された可能性が考えられる。また、日本の保険制度や医療アクセスの良さにより、小児に喘鳴が発生した場合でも適切な医療を迅速に受けられることが肺機能の低下を妨げたのではないかと推測された。「研究の結果は、日本の小児集団における喘鳴とぜん息の現状の理解を深めるものであり、今後のぜん息の研究や医療政策策定などに貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース