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術後の向精神薬使用、リエゾン介入の効果を明らかに-京都府医大ほか

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2025年04月30日 AM09:10

せん妄患者に必要なリエゾン介入が行われていないことも少なくない

京都府立医科大学は4月23日、術後に生じた精神症状に対して使用された向精神薬を含む精神症状治療に使用される薬剤(以下、向精神薬等)の実態調査を行い、精神科医を始めとした専門家による助言・指導(精神科リエゾンコンサルテーション、以下リエゾン)が依頼されたケースと依頼のないケースで処方内容を比較し、その結果を発表した。この研究は、同大大学院医学研究科 精神機能病態学 助教の北岡力らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Psychosomatic Research」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

術後せん妄は最も一般的な術後に認められる精神疾患であり、その有病率は15~50%と報告されている。術後せん妄の発症により身体的な治療が妨げられ、入院期間の延長や医療費の増大が生じるため、せん妄の予防や早期介入は非常に重要だ。せん妄治療に関するガイドラインでは、まずは環境調整、睡眠衛生指導、早期離床、患者に装着されたデバイスの早期抜去が優先され、それでもコントロールできない場合に精神症状の治療に用いられる薬剤(向精神薬等)による薬物療法を行うことが推奨されている。しかし、向精神薬等の中でもベンゾジアゼピン系睡眠薬はせん妄を誘発するリスクがあるため、使用を避けることが推奨されている。

また、せん妄の治療には抗精神病薬が用いられることが多いが、高齢認知症患者への抗精神病薬の使用は死亡率を増加させるという報告もあり、その使用は最小限に抑えるべきとされている。このようなガイドラインの推奨事項にもかかわらず、臨床の現場では昔からの慣習として術後のベンゾジアゼピン系睡眠薬の使用や、せん妄以外への抗精神病薬の使用が行われることがある。

入院中に心理社会的な問題が生じた場合、精神科医を始めとした専門家によるリエゾンが行われることがある。リエゾンの介入を受けることができる病院ではリエゾンチームからさまざまな心理社会的問題への対応に関する助言・指導が提供されるが、リエゾン介入は主治医からの依頼がないと利用できないため、主治医が必要と認識していない場合は患者にリエゾン介入が行われることがない。特に、せん妄は外科医と精神科医では診断の一致率が低いとの報告もあり、本来リエゾン介入を受けるべき患者に介入が行われていないことも少なくないと考えられる。

リエゾン介入の違いによる向精神薬等の処方実態調査を実施

術後せん妄に関して、発症率やリスク因子に関する研究はこれまでにも多く行われているが、術後せん妄に対する薬物療法に関する研究は、リエゾン介入を受けた患者を対象としたものか、集中治療室のような特定の領域における患者を対象としたものがほとんどであり、病院全体でのリエゾン介入の有無による診療内容の違い、特に向精神薬等の使用の違いに着目した研究はなかった。そこで研究グループはカルテ調査の手法を用いて、リエゾン介入の違いによる向精神薬等の処方実態調査を行った。

せん妄を発症した患者のうち半数がリエゾン介入を受けていると判明

2つの総合病院(合計1,353床)において、2019年4月1日~同年6月30日までの3か月間に全身麻酔を受けた患者のうち、術後に向精神薬等が処方された方を対象とし、使用された向精神薬等の内容を調査するとともに、リエゾン介入の有無、術後せん妄の発症の有無、および患者の背景情報についても合わせて調査した。同時に、向精神薬等の投与によって生じた有害事象(薬の使用に伴う健康被害)についても調べた。

調査の結果、1,558人の患者が全身麻酔下で手術を受け、そのうち509人が研究の基準を満たした。対象患者の13.2%(67/509)がリエゾン介入を受けており、術後せん妄は15.1%(77/509)の患者に生じていた。せん妄を発症した患者のうち、半数の患者がリエゾン介入を受けていた(39/77)。

リエゾン非介入群は、術後せん妄がない患者への抗精神病薬の使用率「高」

使用されていた向精神薬等の内訳は、トラゾドンという催眠作用が強い抗うつ薬(33%、168/509)が最も多く、次いでベンゾジアゼピン系睡眠薬(26%、132/509)、(22%、111/509)の順で使用されていた。最も多く使用された抗精神病薬はハロペリドール(点滴)で(16%、79/509)、次いでクエチアピン(7%、37/509)、リスペリドン(3%、17/509)が多く使用されていた。ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、リエゾン介入の有無による違いが顕著であり、術後にベンゾジアゼピン系睡眠薬が処方された患者の大部分がリエゾン非介入群だった(86%、113/132)。ベンゾジアゼピン系睡眠薬の中でも、特にブロチゾラムという薬が最も使用され(18%、90/509)、次いでフルニトラゼパム(点滴)(3%、17/509)が多く使用されていた。その他、デクスメデトミジン(点滴)(13%、65/509)、ヒドロキシジン(点滴)(9%、34/509)などの薬も使用されていた。

術後の抗精神病薬の使用について、リエゾン非介入群では介入群と比べ、せん妄のない患者への使用率が高く(65%(43/66) vs 22%(10/45))、特にハロペリドールについては、投与された非介入群の患者の70%はせん妄を有していなかった。またハロペリドールの1日あたりの使用量は、リエゾン非介入群で有意に多く使用されていた(0.38mg/日VS 0.22mg/日、p=0.04)。薬剤性有害事象は100患者あたり9.6(95%信頼区間:7.1-12.2)、1,000入院日あたり3.8(95%信頼区間:2.8-4.9)の頻度で認められており、ハロペリドールにおける有害事象としては、傾眠が最も頻度が高く(43%、21/49)、次いで意識障害(16%、8/49)、血圧低下(8%、4/49)の順に多く認められた。

同研究で注目すべき結果として、術後の向精神薬等の約73%がリエゾンの関与なく外科主治医により処方されており、薬剤種類ごとの頻度としては、抗精神病薬では約60%、ベンゾジアゼピン系睡眠薬では約90%が外科主治医により処方されていた。そして、リエゾン介入を受けなかった患者では、せん妄が認められない患者にも抗精神病薬が処方されることが多く、カルテ記載内容から、おそらくせん妄の予防目的や不眠症の治療目的で処方されていると考えられた。前述のガイドラインでは、せん妄予防や不眠症治療目的で抗精神病薬を使用することは推奨されていない。

リエゾン精神科医関与の術後向精神薬処方ガイド作成が、適正使用に寄与する可能性

手術を受けるすべての患者に対してリエゾン介入を提供することは不可能であり、また多くの病院ではリエゾンに従事する医療者の人員は限られていることから、術後患者に新たに生じた精神症状への初期対応は外科主治医により行われており、今後も同様の状況が続くと予想される。外科医が自らの専門ではないせん妄治療について知識をアップデートし続けることは困難であるため、リエゾン精神科医の関与のもと、最新のガイドラインの内容をふまえて推奨される術後の向精神薬処方ガイドを作成し普及させることは、病院全体における術後患者への向精神薬等の使用の適正化に寄与すると考えられる。

「特に本研究の結果からは、新規睡眠薬使用の普及とベンゾジアゼピン系睡眠薬の新規使用に対する注意喚起、および抗精神病薬のせん妄予防や不眠治療等の目的での使用への注意喚起は、より質の高い術後の向精神薬等の使用につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

 

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