乳がん、日本では毎年9万人が新たに罹患
広島大学は4月23日、乳がん細胞内で神経ペプチド受容体VIPR2が二量体化することを明らかにし、これが乳がんの増殖や転移の要因であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科細胞分子薬理学の浅野智志助教、吾郷由希夫教授、東京農業大学生命科学部バイオサイエンス学科の中澤敬信教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「British Journal of Pharmacology」にオンライン掲載されている。

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乳がんは、世界的にみて女性で最も罹患数の多いがん。世界で約230万人、日本においては約9万人が毎年新たに罹患しているといわれている。原発巣で増殖した非浸潤がんが進行して浸潤がんになると、リンパ節や肺などに転移し、致死率が高くなる。
神経ペプチド受容体「VIPR2」は乳がん細胞で発現が増加する
神経ペプチドは、身体が特定の刺激を受けると放出され、細胞の表面にある神経ペプチド受容体と結びつくことで、例えば痛みを抑えたり、気分を良くしたりするなど、さまざまな働きをする。神経ペプチドも神経ペプチド受容体も、その働きによっていくつもの種類が存在するが、その中の一つが「VIPR2」という神経ペプチド受容体。この受容体は特定の神経ペプチドと結びつくことで、血流改善や消化促進、ストレスの調整などの効果を発揮する。これまでの研究で、乳がん細胞においてVIPR2 mRNAやVIPR2遺伝子のコピー数が増加することが報告されていた。
乳がん細胞でのVIPR2の構造、役割は明らかになっていない
Gタンパク質共役型受容体(GPCR)に属するいくつかの受容体は二量体化することが報告されているが、その生理学的な意義はほとんどわかっていない。
また、VIPR2はGPCRの一種だが、VIPR2が二量体化するのかについては、知られていなかった。一般的にGPCRの二量体化は、発現増加などによるGPCR数の増加に伴って自然発生的に起こる。もしVIPR2が二量体化するのであれば、VIPR2 mRNAの発現が増加している乳がん細胞では、他のがん種と比較してVIPR2が二量体化しやすい可能性が考えられた。
そこで今回の研究では、まずVIPR2が乳がん細胞で二量体を形成するか否かを検証し、二量体を形成するのであれば、それが乳がんにおいてどのような役割を果たしているのかを明らかにすることを目的として検討を行った。
VIPR2は膜貫通ドメイン3-4を介して二量体化する
研究グループは、VIPR2が乳がん細胞内で二量体を形成しており、VIPR2-VIPR2間の結合に細胞膜貫通ドメイン3-4の領域が必須であることを発見した。また、膜貫通ドメイン3-4ペプチドの競合結合性を利用して、VIPR2を脱二量体化させることに成功した。
二量体VIPR2が乳がん細胞の増悪化に関わることをマウスで確認
研究グループは、この膜貫通ドメイン3-4を発現する乳がん細胞株を樹立した。この細胞をマウスに移植し、生体内における二量体と単量体の機能の違いを解析したところ、単量体ではなく、二量体VIPR2が乳がん細胞の増殖や転移に不可欠な分子であることがわかった。
二量体形成を介した新たなVIPR2シグナル制御を解明
さらに、二量体化がVIPR2とVIPとの親和性やVIPR2とGαiタンパク質との結合性を調節していることが示され、VIPR2シグナルの新たな制御メカニズムが明らかになった。
乳がんの進行を止める新薬の開発に期待
今回の研究によって、VIPR2が乳がん細胞内で二量体化し、この二量体VIPR2が乳がんの増殖や転移を促進させる分子であることが示された。
「膜貫通ドメイン3-4の発現が乳がん細胞の増悪化を抑制できたことから、今後は精製した膜貫通ドメイン3-4ペプチドの制がん作用を動物モデルで検証する。VIPR2の発現増加によって二量体化が亢進しているがん細胞を標的とする新規抗がん剤の開発研究を進めていきたい」と、研究グループは述べている。
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