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日本人の2型糖尿病、炭水化物摂取割合と心血管疾患との関連を明らかに-順大ほか

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2025年04月28日 AM09:00

食事の栄養素と心血管イベントや死亡のリスクの関連を調査

順天堂大学は4月17日、一日の摂取エネルギーに占める炭水化物の割合が高いことが、2型糖尿病を有する人の心血管イベントや死亡のリスクの増加と関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科代謝内分泌内科学の三田智也准教授、綿田裕孝教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

2型糖尿病を有する人々は、心血管イベントや死亡のリスクが高いことが広く認識されている。糖尿病治療においては、これらのリスクを軽減するために、食事、運動、睡眠、そして生活リズムの改善が重要だ。しかし、これまでの研究では、脂肪摂取量を減少させることを主としたエネルギー制限食などの生活習慣への介入では、2型糖尿病を有する人の心血管イベントや死亡リスクの低下には結びつかなかったことが示されている。このことから、単に食事量を制限するのではなく、食事の質や食事以外の生活習慣も考慮することが重要であると考えられる。

糖尿病治療ガイドライン(2024年版日本糖尿病学会)では、2型糖尿病を有する人々に対して、初期設定としてエネルギー摂取量の40〜60%を炭水化物から摂取することを提案しているが、適切な栄養素の割合については依然として明確ではなかった。さらに、2024年版の日本糖尿病学会の糖尿病診療ガイドラインや米国糖尿病学会のガイドラインは、総炭水化物摂取量を減らすことが血糖管理の改善に寄与する可能性を示唆している。しかし、炭水化物摂取割合が心血管イベントや死亡リスクに与える影響や、炭水化物摂取量を減らした場合にタンパク質や脂質を増やすことがどのような影響を及ぼすのか、さらに動物由来と植物由来のタンパク質や脂質では影響が異なるのかについては、依然として不明な点が多い。そこで研究グループは2型糖尿病を有する人を対象に、食事の栄養素を含むさまざまな生活習慣と心血管イベントや死亡リスクとの関連性を検討した。

2型糖尿病を有し通院中の731人対象、最大10年間追跡

順天堂医院などに通院中で心血管イベントの既往がない2型糖尿病を有する731人を対象に、試験開始時、2年後、5年後に食事、身体活動量、睡眠時間、睡眠の質、生活のリズムなどさまざまな生活習慣を質問紙により評価し、心血管イベント発症日や死亡日または追跡終了日までの各生活習慣スコアの平均値を算出した。食事評価には、日本人の食習慣を反映させるために設計された簡易型自己記入式食事歴質問票(BDHQ:Brief-type Self-administered Diet History Questionnaire)を使用し、摂取エネルギーや主要栄養素の摂取量を推定した。

、脂質の三大栄養素は密接に関連しており、例えば炭水化物摂取量が多いと、タンパク質や脂質の摂取量が少なくなる傾向がある。そのため、各栄養素単独での摂取量を検討するのではなく、これら3つの栄養素のバランスを考慮することが重要だ。このため、、タンパク質、脂質の摂取量に基づき、低炭水化物ダイエットスコアを算出した。炭水化物摂取量で11等分し、摂取量が最も少ないものを10点、最も多いものを0点、タンパク質と脂肪の摂取量でも同様に計算し、これらを合計して「総低炭水化物スコア」を算出した。このスコアが高いほど、炭水化物摂取が少なく、タンパク質や脂質摂取が多いことを示す。また、動物性食品と植物性食品に基づくスコアも別々に算出し、それぞれ「動物性低炭水化物スコア」と「植物性低炭水化物スコア」として評価。最大10年間にわたって心血管イベントや死亡の発症状況を追跡し、各生活習慣と心血管イベントまたは死亡のリスクとの関連性を検討した。

炭水化物の摂取割合が高いほど心血管イベントや死亡のリスク増

対象者の平均年齢は57.8±8.6歳、62.9%が男性で、BMIは24.6±4.1kg/m²だった。平均追跡期間は7.5±2.4年で、その間に55人(7.5%)が心血管イベントまたは死亡という主要なアウトカムを発症した。分析の結果、年齢、性別、総エネルギー摂取量、動脈硬化のリスク因子を調整した後も、炭水化物摂取割合が高いほど主要アウトカムの発生リスクが高いことが示された。また、「総低炭水化物スコア」や「動物性低炭水化物スコア」が高いほど、主要アウトカムのリスクが低いことも明らかになった。さらに、飽和脂肪酸の摂取割合が高いと、リスクが低下することが認められた。

動物性タンパク質や脂質を増やし、炭水化物摂取量を減らすことがリスク減の可能性

これまでの一般人口を対象とした研究では、炭水化物摂取割合と死亡リスクとの関係に一貫性がなかったが、研究では、2型糖尿病を有する人々において、炭水化物摂取割合が多いほど主要アウトカムの発症リスクが増加することが示された。糖代謝異常を伴う2型糖尿病を有する人は、一般人口に比べて炭水化物摂取の影響を受けやすい可能性があり、特に日本人の主食である米の摂取量が多いと、主要アウトカムが増加する可能性が示唆された。

西洋諸国の研究では、「動物性低炭水化物スコア」が高いと総死因および心血管イベントによる死亡リスクが高まる一方で、「植物性低炭水化物スコア」が高いとリスクが低下することが示されている。しかし、アジア諸国の研究では、「動物性低炭水化物スコア」が高いと死亡リスクが低下することが報告されている。研究でも、日本の2型糖尿病を有する人々において「動物性低炭水化物スコア」が高いと主要アウトカムのリスクが低下することが確認された。この結果は、動物性タンパク質や脂質を増やし、炭水化物摂取量を減らすことが、主要アウトカムの発症リスクを低下させる可能性があることを示唆している。なお、日本における動物由来のタンパク質源としては魚が主であり、研究対象者においても肉類の摂取量は比較的少量だった。肉類はタンパク質、ミネラル、ビタミンが豊富で、エネルギー源として優れており、適量の肉類摂取の有用性が動物性脂質摂取のリスクに優り、心血管リスク低減に寄与したと考えられる。したがって、過剰な動物性タンパク質摂取を勧めるものではない。

発症抑制のメカニズム解明と介入研究による長期的な影響を検討

日本人2型糖尿病においては、炭水化物の摂取割合が高いと心血管イベントや死亡リスクが増加し、逆に、炭水化物摂取量を減少させ、動物性のタンパク質や脂質摂取量を増加させることがリスク低下に寄与することがわかった。これらの結果は、2型糖尿病を有する人の心血管疾患予防において、食事に含まれる栄養素の調整が重要であることを示唆している。

「今後は炭水化物摂取割合を減らすことで、どのようなメカニズムで心血管イベントが抑制されるのかを明らかにする必要がある。また、研究では炭水化物摂取割合が約45%で予後に良い影響を与える可能性があることがわかったが、さらに厳格な糖質制限食が予後に与える影響についても検討することが今後の課題だ。さらに、食事の栄養素バランスを調整した介入研究を通じて、長期的に心血管イベントの発生リスクを低下させるかどうかを検討することが重要であると考えられる」と、研究グループは述べている。

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