医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 高齢運転者、認知機能低下でも同乗者アリで事故を起こしにくい-筑波大ほか

高齢運転者、認知機能低下でも同乗者アリで事故を起こしにくい-筑波大ほか

読了時間:約 2分38秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2025年04月25日 AM09:10

運転をやめると健康を損なうリスクが高まるとの指摘も

筑波大学は4月15日、認知機能が低下した運転者においても、同乗者がいると事故を起こしにくい可能性があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学医療系の市川政雄教授、東京大学大学院医学系研究科の稲田晴彦准教授、交通事故総合分析センター研究部研究第一課の小菅英恵主任研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Safety Research」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本では高齢運転者の事故を防ぐため、免許更新時に70歳以上の運転者には高齢者講習が、75歳以上の運転者には認知機能検査が義務付けられている。75歳以上の運転者が特定の違反行為を行った場合、臨時で認知機能検査が行われ、免許更新時には運転技能検査が課される。一方、先進安全技術の開発が大きく進展し、「衝突被害軽減ブレーキ」や「ペダル踏み間違い急発進等抑制装置」が搭載された安全運転サポート車や、後付けの急発進等抑制装置の普及が図られている。また海外では、高齢運転者の事故防止のために、運転可能な時間帯・道路種別・区域・車両などを限定する限定免許制度が導入されている国や地域がある。日本では認知症と診断されると、免許が停止あるいは取り消されるが、海外では認知症のみを理由に免許が取り消されることはほとんどなく、個人の健康状態や生活状況に配慮した対応がとられ、それが限定免許制度にも表れている。運転をやめることで健康を損なうリスクが高まることも指摘されており、日本でもそのような制度の検討が急がれる。

そこで今回の研究では、高齢運転者が事故を起こすリスクは同乗者がいると低いという海外での知見と、同乗者を要する条件付き免許制度があることに注目。認知機能が低下した運転者においても、事故を起こすリスクは同乗者がいると低いのではないかという仮説を検証した。

75歳以上の事故者を過失で分類、同乗者の有無を認知機能別・男女別に比較

研究グループは、2014年から2017年までに認知機能検査を受検し運転免許を更新した75歳以上の免許保有者のうち、免許更新から次の更新までの3年間に車両相互事故に遭った運転者の認知機能検査の結果と交通事故のデータを組み合わせ、事故時の運転者を第1当事者(過失の重い人、約10万9千人)と第2当事者(事故時に法令違反がなく過失がなかったと考えられる人、約5万7千人)に分けて、事故時の同乗者の有無を、認知機能検査の結果別(認知症の恐れがある人、認知機能低下の恐れがある人、いずれの恐れもない人の3群)に男女別で比較。同乗者に事故を起こすリスクを減らす効果があるとすれば、第1当事者より第2当事者が同乗者を伴っていることが多いと考えられる。

男女とも認知機能程度に関わらず「同乗者アリ」で過失重くなりにくい可能性

分析の結果、男女とも、認知機能検査の結果にかかわらず、第1当事者より第2当事者が同乗者を伴うケースが多いことがわかった。その割合は、第1当事者で男性は15~16%、女性は10~11%、第2当事者で男性は29~33%、女性は26~27%であった。一方、二者間で事故の発生に寄与しうる要因(年齢、過去の事故経験、事故時の時間帯・天候・場所)に大きな違いは見られなかった。第1当事者と第2当事者における同乗者有無のオッズ比は、事故の発生に寄与しうる要因の影響を調整したところ、男性では0.36~0.43、女性では0.30~0.32であり、高齢運転者は男女ともに認知機能の程度に関わらず、同乗者を伴っている方が、車両相互事故で第1当事者になりにくい可能性を示唆する結果となった。この結果は因果関係を示すものではないが、高齢運転者の安全運転に同乗者の存在が重要な役割を果たしている可能性がある。

今日、多くの高齢者が車の運転を前提に生活しているのが実状である。代替交通手段のない高齢運転者は、運転をやめると外出機会が減って活動的な生活を送ることができなくなり、要介護認定のリスクが高まることが、国内の複数の研究で実証されている。従って、健康長寿社会を実現するためには、高齢者の「運転寿命」の延伸が不可欠であり、安全運転を支援する方法をあらゆる角度から探る必要があると考えられる、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 脳卒中、高機能者と低機能者の不整地歩行の特徴解明-畿央大
  • 「進行すい臓がん」の適切な指標となり得る腫瘍マーカー遺伝子モデル開発-名大ほか
  • 呼吸器・免疫疾患と心血管代謝疾患の遺伝的相関、アジアと欧州で真逆-阪大ほか
  • 薬の副作用メカニズムに関わる新たなエンハンサー領域同定-都医学研
  • ムコ多糖症治療、カイコ由来低コスト酵素でニホンザルモデルの臨床徴候改善-京大ほか