肥満に伴う脂肪組織リモデリングにEva1が関与?
北海道大学は4月10日、Epithelial V-like antigen1(Eva1)と呼ばれる細胞表面分子が肥満に伴う内臓脂肪組織の機能不全に関与することを発見したと発表した。この研究は、同大遺伝子病制御研究所の孫ユリ講師、近藤亨教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Metabolism-Clinical and Experimental」にオンライン掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
肥満とは、持続した過栄養摂取や運動不足により脂肪組織が過剰に蓄積した状態であり、細胞レベルでは、脂肪細胞の肥大化(サイズの増大)と脂肪細胞数の増加を伴う。肥満が進行すると、脂肪組織局所では過剰な脂肪蓄積に耐え切れず壊死した肥大化脂肪細胞の周辺をマクロファージが取り囲むユニークな組織像としてCrown-like structures(CLS)が認められ、これが起点となって炎症の慢性化と線維化(コラーゲンが過剰に蓄積)が誘導されると考えられている。脂肪細胞に蓄えきれない過剰な脂肪は血中を介して全身に作用し、非脂肪組織に異所性脂肪として蓄積され(脂肪肝や脂肪筋など)、臓器代謝ネットワークが破綻することから、脂肪組織の機能低下は代謝異常を引き起こす本質的な原因とされている。
一方、脂肪細胞は2種類に分類され、皮下や内臓の脂肪組織に存在する白色脂肪細胞は体内の余分なエネルギーを蓄積することに対し、褐色脂肪細胞は熱を産生しエネルギーを消費する。今回、研究グループが注目した細胞表面分子Eva1は褐色脂肪細胞に特異的に発現する遺伝子として報告されているが、Eva1の機能、特に代謝制御における役割についてはこれまで全く不明だった。また、その発現レベルは低いものの、白色脂肪組織にもEva1は発現しており、他の組織や臓器ではほとんど発現しないことから、Eva1は脂肪組織を介して機能していると考えられる。そこで研究グループは、肥満に伴う脂肪組織のリモデリング(再建築)にEva1が関与しているのかを検討した。
全身Eva1欠損マウスは高脂肪食でも肥満抑制、脂肪細胞特異的欠損は影響せず
今回研究グループは、全身Eva1欠損マウス、脂肪細胞特異的Eva1欠損マウス、マクロファージ移植モデルマウスを用い、高脂肪食誘導性肥満に伴う脂肪組織の形態的及び機能的変化を解析し、どの細胞由来のEva1が肥満制御に関与しているのかを解明した。
全身Eva1欠損マウスは野生型と同じ量の高脂肪食を摂取しているにも関わらず、肥満が抑制されインスリン抵抗性を発症しないことが判明。しかし、脂肪細胞特異的Eva1欠損マウスでは肥満抑制効果は認められず、脂肪細胞以外に発現するEva1が肥満の発症に関与していることが示された。高脂肪食を与えたEva1欠損マウスと野生型マウスの脂肪組織を比較したところ、Eva1欠損は褐色脂肪には影響を及ぼさず、内臓脂肪におけるCLS形成(マクロファージの浸潤)と線維化(コラーゲンの蓄積)を減少させることがわかった。
細胞移植実験により、マクロファージに発現のEva1が肥満発症に重要と判明
そこで、研究グループはEva1を介した肥満制御にマクロファージが関与している可能性を検討した。その結果、Eva1はマクロファージに発現しており、Toll様受容体4(TLR4)との直接的な相互作用を介して、リポ多糖(LPS)による炎症反応に寄与していることを明らかにした。さらに、野生型のマクロファージを移植したEva1欠損マウスに高脂肪食を与えると、肥満が誘導され、内臓脂肪組織におけるCLS形成と線維化が増加することから、マクロファージ由来のEva1が肥満の発症に重要な役割を果たしていることが判明した。
肥満関連のさまざまな代謝疾患に対する有望な治療手段となる可能性
研究の結果、Eva1の働きを抑えることで脂肪組織の機能が改善され、肥満や糖尿病などの発症が抑制されることが期待される。内臓脂肪組織の質を改善することは肥満に関連するさまざまな代謝疾患に対してより根本的で有望的な治療手段となり得る。「今後、Eva1を標的とした新たな治療法の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・北海道大学 プレスリリース