予後不良の肝細胞がん、非侵襲的に診断可能な新規バイオマーカーが必要
大阪大学は3月4日、肝細胞がんの新たな診断および予後マーカーとして「FOLR1」を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の竹原徹郎教授(研究当時)、小玉尚宏講師、塩出悠登氏(現:米国国立がん研究センター)(消化器内科学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Biomarker Research」にオンライン掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
肝細胞がんは原発性肝がんの約80%を占め、慢性肝炎や肝硬変を背景に発症する。肝細胞がんの5年生存率は依然として低く、特に進行期では予後が極めて不良であり、患者の生存率を向上させるためには早期発見が不可欠である。肝細胞がんの診断は主に、画像診断とαフェトプロテイン(AFP)などの腫瘍マーカー血液検査で行うが、AFPはすべての肝細胞がん患者で上昇するわけではなく、特にAFP陰性肝細胞がんの診断が困難なことが課題となっている。
近年の分子分類研究により、肝細胞がんには複数の分子サブタイプが存在することが明らかになっている。その中でも特に、がん幹細胞性を持つサブタイプは悪性度が高く、再発や治療抵抗性を示すことが多いため、予後が不良である。これらのサブタイプは、KRT19、EPCAM、PROM1といったマーカーを高発現していることが特徴だが、これらのマーカーを正確に測定するためには侵襲的な腫瘍生検が必要であり、患者負担が大きいという問題があった。したがって、非侵襲的に診断できる新規バイオマーカーの同定が強く求められていた。
幹細胞性強い肝細胞がんサブタイプで顕著に発現する「FOLR1」に着目
今回の研究では、肝細胞がんの幹細胞性質を持つ腫瘍サブタイプにおいて特異的に発現する分泌タンパク質を同定し、新規バイオマーカーとしての可能性を評価した。
肝細胞がんの分子分類に基づく解析を行った結果、Folate Receptor 1(FOLR1)が幹細胞マーカー(KRT19、EPCAM、PROM1)と強く相関し、幹細胞性の強い肝細胞がんサブタイプで顕著に発現していることを確認した。
肝細胞がん患者の血清FOLR1濃度、大腸ポリープ/慢性肝疾患群と比較し有意に上昇
また、2つの独立した肝細胞がんコホートのRNAシークエンスデータを解析し、FOLR1の高発現がp53、DNA修復、MYC、E2F、PI3K/AKT/mTOR経路の活性化と関連し、腫瘍の進行や悪性度と密接に結びついていることを明らかにした。
さらに、50人の大腸ポリープ患者、238人の慢性肝疾患患者および247人の肝細胞がん患者の血清サンプルを解析した結果、肝細胞がん患者における血清FOLR1濃度が有意に上昇していることを確認した。
AFPとの組み合わせで診断精度が有意に向上
また、血清FOLR1濃度が従来の腫瘍マーカーAFPと同等の診断精度を示すことを発見した。さらにAFPとFOLR1を組み合わせることで、肝細胞がん診断精度が有意に向上することを確認した。
また、血清FOLR1濃度と肝細胞がん患者の予後の関連を検討した結果、高FOLR1発現群は低FOLR1発現群と比較して有意に短い生存期間を示し、特に早期肝細胞がん(ステージI/II)において顕著であることが判明した。多変量解析の結果、血清FOLR1濃度とGALADスコア(Gender, Age, AFP-L3, AFP, Des-gamma-carboxy prothrombin)は独立した予後不良因子であり、両者を組み合わせることで患者のリスク層別化が可能であることが示された。
早期発見とリスク層別化が非侵襲的に可能、個別化治療などに重要な役割を果たす可能性
今回の研究の成果により、FOLR1が肝細胞がんの診断および予後予測において有望なバイオマーカーであることが明らかになった。「FOLR1を用いた診断法が実現すれば、肝細胞がんの早期発見およびリスク層別化が非侵襲的に可能となり、患者の生存率向上が期待される。特に、がん幹細胞性HCCに特異的に発現するマーカーとしての意義は大きく、個別化治療や再発リスク管理において重要な役割を果たすことが見込まれる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・大阪大学大学院医学系研究科・医学部 主要研究成果