標準治療が確立していないTFHリンパ腫、ゲノム異常と臨床的特徴・予後の関連も未解明
筑波大学は4月4日、血液がんの一種であるT濾胞ヘルパー細胞リンパ腫について、ゲノム異常に基づく分子分類、および、RNAシーケンス解析による腫瘍微小環境分類を行い、それぞれの分類ごとに、臨床的特徴や予後が異なることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学医療系の坂田(柳元)麻実子教授、末原泰人講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Leukemia」に掲載されている。

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末梢性T細胞リンパ腫は血液がんである悪性リンパ腫の10%前後を占め、その中でもT濾胞ヘルパー(T follicular helper)細胞リンパ腫(TFHリンパ腫)は代表的な病型である。近年の網羅的ゲノム解析により、TFHリンパ腫のゲノム異常として、TET2を代表とするエピゲノム調節因子の遺伝子変異、疾患特異的変異であるRHOA G17V変異、T細胞受容体経路構成因子の遺伝子変異が高頻度に認められることが明らかになっている。TFHリンパ腫は標準治療が定まっておらず、予後不良の疾患である一方、長期生存する患者群もある。また、悪性リンパ腫の病理診断とゲノム異常は必ずしも一致しないため、TFHリンパ腫が、その類縁疾患である末梢性T細胞リンパ腫・非特定型(PTCL-NOS)の中に含まれる可能性がある。
そこで研究グループは、TFHリンパ腫のゲノム異常と臨床的特徴・予後の関係性を明らかにするため、全エクソームシーケンス解析を用いて、TFHリンパ腫とPTCL-NOS患者のがん組織を対象に解析し、遺伝子異常を同定し、その遺伝子異常に基づいた分子分類を行った。さらに、がん組織を用いたRNAシーケンス解析を行い、得られたデータに対して、既存の単一細胞レベルRNAシーケンス解析を用いて、腫瘍組織中に存在する免疫細胞比率の推定と腫瘍微小環境の分類を行った。
PTCL-NOS含む129人、遺伝子変異・コピー数異常などから予後や特徴異なる3群に分類
今回の研究では、94人のTFHリンパ腫患者と35人のPTCL-NOS患者の計129人の腫瘍検体を用いて、全エクソームシーケンス解析を行い、遺伝子変異、コピー数異常、構造異常の解析を行った。さらに、これらの解析で検出された遺伝子異常のうち、頻度の高い35の遺伝子異常について、非負値行列分解という手法を用いて、3つの分子分類(C1~C3)を同定した。
多くのTFHリンパ腫は、従来からTFHリンパ腫で認識されてきたエピゲノム調節因子の遺伝子異常、および、RHOAG17V変異が共通しているが(C1、C3)、そのうち、5番染色体の増幅とIDH2変異を有する頻度が高い分類をC3とした。また、C3はC1と比較して有意に予後が不良であることが明らかになった。全エクソームシーケンス解析を行った129人とは別の、染色体解析データが得られている48人(TFHリンパ腫27人、PTCL-NOS 21人)においても、5番染色体の増幅が予後不良因子であることが確認された。分類C2は、染色体異数性やTP53およびCDKN2A異常が主体で、多くはPTCL-NOSから構成され、既報の末梢性T細胞リンパ腫の分子分類に相当する群と考えられた。
また、一部のTFHリンパ腫もC2に分類された。C2はC1と比較して有意に予後が不良であることがわかった。さらに、TFHリンパ腫の代表病型である血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)においては、C3はC1、C2と比較して、皮疹を有する割合や血中C反応性タンパク(炎症に反応して産生されるタンパク質)が有意に高くなっていた。
RNAシーケンス解析から腫瘍微小環境を3つに分類、M2マクロファージ増加群は予後不良
上記129人のうち、腫瘍検体由来RNAの品質が一定の基準を満たしていた57人について、腫瘍検体を用いてRNAシーケンス解析を実施した。RNAシーケンス解析を行い、さらに既存の単一細胞レベルシーケンス解析データを利用したデコンボリューション解析を用いて、腫瘍組織中に存在する免疫細胞比率を推定するとともに、腫瘍微小環境を分類した。腫瘍微小環境は大きく3つに分類され、B細胞が増加するTME1、M2マクロファージが増加するTME2、それ以外のTME3が同定された。これらの免疫細胞比率の増加は、免疫染色による分析でも認められた。TME2はTME3と比較して有意に予後が不良であり、また、前述の分子分類C2と腫瘍微小環境TME2は約6割が重複していることが確認された。
TFHリンパ腫の治療最適化だけでなく、新たな治療法開発にもつながると期待
これらの結果から、TFHリンパ腫では、1)5番染色体の増幅やIDH2変異などに特徴づけられる予後不良の一群があること、2)一部にはPTCL-NOSの一群で認めるような染色体異数性およびTP53、CDKN2A異常を呈するTFHリンパ腫があり、同様に予後不良であること、3)M2マクロファージが増加した免疫微小環境は予後不良と関連しており、特定のゲノム異常でそのような免疫微小環境が形成されやすい可能性があること、の3点が明らかになった。
より正確な予後層別化は、同種造血幹細胞移植など治療関連死亡率の高い強力な治療を行うかどうか、といった治療戦略の判断に役立つ。また、特定の新規薬剤治療は、ゲノム異常プロファイルにより奏効率が異なる可能性がある。「研究成果は今後、TFHリンパ腫の治療最適化につながるとともに、新たな治療法開発の基盤となることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL