ゲーム要素のある睡眠計測アプリの効果、科学的な検証は行われていなかった
筑波大学は4月15日、睡眠計測ゲームアプリ利用は睡眠指標の改善を促し、BMI低下につながることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の柳沢正史教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Sleep Health」に掲載されている。

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近年、運動・食事などの健康に関する生活状況を計測・記録できる携帯アプリケーション(以下、アプリ)が開発されており、ゲーム要素を持たせて継続率や効果を高めるアプリも登場している。ゲーム要素のある運動・食事アプリの利用は、そうでないものと比べて、歩数や体重などの健康指標を統計学的に有意に改善することが知られている。
これまで睡眠を計測できるアプリは世界でいくつか配信されており、株式会社ポケモンの「Pokemon Sleep」は睡眠計測にゲーム要素を盛り込んだアプリとして、2023年7月から配信されている。しかし、このような睡眠計測ゲームアプリが実際にユーザーの睡眠指標や健康指標の改善につながるかどうか、科学的に検証はされていなかった。
睡眠計測アプリの効果を4つの睡眠指標とBMIで評価
そこで今回の研究では、「Pokemon Sleep」および株式会社asken(あすけん)の食事・体重管理アプリ「あすけん」の同時利用者を対象に、「Pokemon Sleep」開始後90日間の利用データを解析し、睡眠指標がどのように変化したか検討した。また、睡眠指標が改善した人としていない人の間でBMI(body mass index、ボディマス指標)の変化の違いを検証した。
2024年1月に「あすけん」アプリのユーザーにメッセージを送信し、「Pokemon Sleep」と「あすけん」を同時に利用している6,052人から研究の同意・協力を得た。そのうち、「Pokemon Sleep」を90日以上利用しており、その間「あすけん」によりBMIの記録を行っていた2,063人(平均年齢38.3歳、女性82.1%)を研究対象とした。
「Pokemon Sleep」には、スマートフォンに内蔵された3軸加速度計で記録された体動データから睡眠と覚醒を判定する機能(Cole-Kripkeアルゴリズム)が備わっている。このデータを利用し、総睡眠時間、睡眠潜時(寝床に入ってから寝つくまでの時間)、中途覚醒時間割合、寝床に入る時刻の4つの睡眠指標を、個別・日ごとに再計算した。アプリを利用しない日があった場合は、その前後の利用日のデータの平均値で補完した。
全体で総睡眠時間が増加、一部の人では他の睡眠指標も改善
4つの睡眠指標の90日間の変化を集団平均値で見てみると、総睡眠時間は5.5時間から6.3時間となり、0.8時間(約48分)増加した。一方、睡眠潜時(19.0分から21.2分)、中途覚醒時間割合(9.1%から9.3%)、寝床に入る時刻(24:22から24:15)については、大きな変化は見られなかった。しかし、個人別に90日間の変化を計算してみると、総睡眠時間(増加)は45.3%、睡眠潜時(短縮)は18.1%、中途覚醒時間割合(短縮)は24.4%、寝床に入る時刻(早くなること)は21.3%の人に改善が見られた。
睡眠指標が改善した人はBMIが大きく低下、特に睡眠潜時の影響が顕著
また、各睡眠指標の改善の有無と90日間のBMIの変化の関係を調べたところ、総睡眠時間、睡眠潜時、寝床に入る時刻において、改善した人ではそうでない人に比べてBMIが大きく下がる傾向が見られた。特に、睡眠潜時については統計学的な有意差(反復測定分散分析、P値=0.030)が示され、睡眠潜時が改善(短縮)した374人の90日間のBMI変化量は平均-0.51、改善していない1,689人のBMI変化量は平均-0.23であり、その差は-0.28(95%信頼区間:-0.56-0)だった。
以上から、「Pokemon Sleep」の利用開始から90日間で、集団レベルでは平均して総睡眠時間が増加し、個人レベルでも各睡眠指標が改善した人が認められた。また、睡眠指標(特に睡眠潜時)が改善した人では、BMIが大きく低下する傾向が見られた。
アプリのゲーム要素が睡眠指標の改善に有効である可能性
睡眠計測ゲームアプリの利用により睡眠指標が改善したメカニズムとしては、アプリ内のゲーム要素がもたらすインセンティブ(長く眠ることによるポイントや、自分で設定した時刻通りに寝床に入ることで得られるスタンプ)が働いた可能性が挙げられる。
また、種々の先行研究では、睡眠指標が悪いと代謝や食欲関連ホルモンを介して肥満につながることが示されている。今回の研究においても、睡眠指標の改善に伴って肥満に関わる状態が改善し、BMIの低下につながった可能性が考えられた。
睡眠計測アプリと健康の関連、今後も研究を進める予定
今回の研究により、ゲーム要素を盛り込んだ睡眠計測ゲームアプリの利用によって、睡眠指標が改善する人が存在し、また睡眠指標の改善がBMIの低下につながる可能性が世界で初めて科学的に示された。ただし、同研究の対象者(アプリ利用者)の健康に対する意識・姿勢が一般的な集団を代表していない、解析対象者を絞ったために結果にバイアスが生じている可能性がある、などの研究の限界にも留意する必要がある。
「今後も、各種睡眠計測アプリの利用とさまざまな健康指標との関連を検討する疫学研究を進める予定」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL