サルコペニア診断法ISarcoPRMと高齢整形外科患者の歩行予後を縦断的に検討
畿央大学は4月7日、急性期整形外科疾患患者における超音波エコーを用いたサルコペニアが歩行自立度に与える影響を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院健康科学研究科の池本大輝氏(博士後期課程)、徳田光紀客員准教授、松本大輔准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Rehabilitation Medicine」に掲載されている。

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サルコペニアは、加齢に伴う骨格筋量および筋力低下と定義され、整形外科疾患患者の術後の死亡率が高く、機能回復の阻害要因になることが明らかにされている。Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)によるサルコペニアの診断基準(AWGS2019)における骨格筋量の評価として、生体電気インピーダンス法(BIA法)がよく用いられる。しかし、BIA法は、急性期の整形外科疾患患者によくみられる外傷および手術の侵襲に伴う浮腫やインプラントなどの体内金属により骨格筋量を過大評価してしまうことが指摘されている。一方、国際リハビリテーション医学会のサルコペニア専門部会(Sarcopenia Special Interest Group of the International Society of Physical and Rehabilitation Medicin:ISarcoPRM)の診断基準では、上述したBIA法の欠点が少ない超音波画像診断装置(超音波エコー)を用いた骨格筋量評価が採用されている。ISarcoPRMを用いたサルコペニアと高齢の急性期整形外科疾患患者のリハビリテーションにおいて重要なアウトカムとなる歩行自立度との関連性を縦断的に検討した研究はなく、いまだ明らかにされていない。
入院前からの歩行自立度の悪化度と、各診断基準サルコペニアとの関連を比較
今回の研究では、急性期病院へ入院された65歳以上の整形外科疾患患者153人を対象に、入院あるいは術後3日以内にAWGS2019とISarcoPRMの2つのサルコペニア診断基準を用いてサルコペニアをそれぞれ判定した。サルコペニアは、各診断基準の骨格筋量低下と握力に基づく筋力低下の両方に該当した場合に判定した。退院時にFunctional Ambulation Category(FAC)で評価した歩行自立度が入院前より悪化したかどうか、と各診断基準のサルコペニアとの関連を比較した。
サルコペニア有病率、AWGS2019は36.6%・ISarcoPRMは56.2%
研究の結果、AWGS2019を用いたサルコペニアの有病率は36.6%、ISarcoPRMを用いたサルコペニアの有病率は56.2%だった。AWGS2019を使用して評価されたサルコペニアと、退院時の歩行自立度の悪化との間には有意な関連を認めなかった。しかし、SarcoPRMを使用して評価されたサルコペニアと退院時の歩行自立度の悪化との間には、有意な関連を認めることが明らかとなった。
ISarcoPRMを用いたサルコペニア判定、退院時の歩行自立度悪化の予後予測の一助として期待
今回の研究は、ISarcoPRMの診断基準で評価したサルコペニアが、AWGS2019の診断基準で評価したサルコペニアよりも、自立歩行との関連が強いことを示す初の縦断的研究である。同研究結果より、高齢の急性期整形外科疾患患者では、超音波エコーで骨格筋量を評価するISarcoPRMを用いてサルコペニアを判定することで、退院時の歩行自立度悪化の予後予測の一助になると考えられる。近年、注目されている超音波エコーを用いた骨格筋評価の有用性を示唆する重要な知見であると考えられる。今後も超音波エコーを用いた骨格筋評価およびISarcoPRMを用いたサルコペニアに関するエビデンスの蓄積に貢献できる研究を継続していく所存である、と研究グループは述べている。
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・畿央大学 プレスリリース