同種造血移植後の再発AML、新たな治療法の開発が必要
大阪大学は4月4日、急性骨髄性白血病(AML)の新しい治療法を開発したと発表した。この研究は、同大免疫学フロンティア研究センターの池田峻弥特任研究員(免疫細胞治療学)、大学院医学系研究科の保仙直毅教授(血液・腫瘍内科学/免疫学フロンティア研究センター免疫細胞治療学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Cancer」に掲載されている。

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AML患者の多くは化学療法のみでは治らないため、同種造血幹細胞移植を行う。しかし、再発による死亡が多く、同種移植後のAML患者に対する新たな治療法が必要とされている。
CAR T細胞療法は、患者自身のT細胞に遺伝子改変を施してがん細胞を攻撃する治療法で、白血病や悪性リンパ腫などの治療に用いられている。AMLに対してもCAR T細胞の開発が期待されているが、AML細胞と正常造血細胞を見分けることの可能な良い標的抗原が見つかっていなかった。また、CAR T細胞は患者ごとに製造する必要があり、製造に時間がかかる上、コストが高いため、他家由来の細胞治療の開発が望まれていた。
AML細胞に強く結合するモノクローナル抗体「KG2032」を同定
今回の研究では、まずAML細胞に結合するモノクローナル抗体を多種類作製し、新たな抗原を探索した。その結果、AML細胞に結合する約1万4,000種類のモノクローナル抗体の中からB細胞以外の健常人末梢血に結合せず、AML患者の骨髄由来AML細胞に強く結合する抗体「KG2032」を同定した。また、KG2032が結合するタンパク質(抗原)が「HLA-DRB1」であることを明らかにした。HLA-DRB1とは白血球の血液型のようなもので個人により型が異なるが、KG2032は約半数の患者で結合が見られた。
KG2032抗体を用いてCAR T細胞を作製、マウスで抗腫瘍効果を確認
同種造血細胞移植は多くのAML患者において行われるが、患者とドナーでHLA-DRB1の型が異なることがよくある。患者のAML細胞が持つHLA-DRB1にKG2032が結合し、かつドナーのそれには結合しない場合、KG2032はAML細胞だけを特異的に認識していることになる。そこで、KG2032抗体を元にCAR T細胞を作製したところ、AMLモデルマウスで著明な抗腫瘍効果が確認された。
臍帯血由来CAR NK細胞にも高い抗腫瘍効果
NK細胞はリンパ球の1種であり、がん細胞やウイルス感染細胞を排除する。NK細胞にCARを発現させたCAR NK細胞はCAR T細胞と比べて製造コストが低く抑えられ、またCAR T細胞療法の副作用として起こり得るサイトカイン放出症候群を起こさないことが知られている。
そこで、研究グループはKG2032由来CARを用いて、臍帯血由来CAR NK細胞を開発した。AMLモデルマウスを用いた実験では、この細胞もAML細胞に対して著明な抗腫瘍効果を持つことが明らかになった。
すぐに使えて安価な遺伝子細胞治療の実現に期待
今回開発された方法により、今まで同種造血細胞移植でも救えなかったAML患者の一部を救うことができる可能性がある。また、今回の研究によって、同種造血幹細胞移植後において、血液細胞に発現する多型分子がCAR T/CAR NK細胞の治療標的として使えることが初めて示された。
「臍帯血を用いたCAR NK細胞が実用化されれば、すぐに使える、より安価な遺伝子細胞治療を実現する可能性がある」と、研究グループは述べている。
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・大阪大学 ResOU