骨軟化症は希少で他疾患と症状が共通などのため診断が難しい
金沢大学は1月30日、指定難病の骨軟化症を発症する新たなメカニズムを発見したと発表した。この研究は、同大がん進展制御研究所免疫環境ダイナミクス研究分野の岡本一男教授(2024年3月まで:東京大学大学院医学系研究科骨免疫学特任准教授)、東京大学大学院医学系研究科の星野良朋氏(医学博士課程)、同大大学院医学系研究科難治性骨疾患治療開発講座の伊東伸朗特任准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The New England Journal of Medicine」に掲載されている。

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くる病・骨軟化症とは、主に血中リン濃度が持続的に低下すること(慢性低リン血症)によって、骨の形成が妨げられ、骨が変形したり微細な骨折による痛みを生じたりする病気。先天的に発症し子どもに症状がみられる場合をくる病、後天的に発症し成人に症状がみられる場合を骨軟化症という。
骨軟化症は、骨が薄くなり脆くなることで骨折に至る骨粗鬆症とは異なるが、珍しい病気であることと、骨の痛みという他の疾患にも共通する症状を呈すること、その原因が通常の診察では把握しにくいことなどの理由から、骨粗鬆症や脊柱管狭窄症、大腿骨頭壊死症、線維筋痛症などと混同されることも少なくない。正しく骨軟化症と診断されないために適切な治療を受けられず、症状が改善しない患者が多くいると推測されている。
原因不明のFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の患者は多い
健常者においては、血中リン濃度は骨細胞から分泌されるFGF23というホルモンによって適切な濃度に維持されている。このFGF23が過剰に分泌されることによって慢性低リン血症となり、くる病・骨軟化症に至る病気をFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症という。FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は、「ビタミンD抵抗性くる病/骨軟化症」として国の指定難病に含まれている(指定難病238)。また、「原発性低リン血症性くる病」として小児慢性特定疾病に登録されている(対象疾病82)。後天的に発症するFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の主な原因疾患は、腫瘍がFGF23を過剰に分泌する腫瘍性骨軟化症だが、原因腫瘍が見つからない患者も多い。
今回の研究では、腫瘍が見つからず原因不明とされてきた後天性FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の病態の一部に自己免疫の異常が関与している可能性に着目し、検討を行った。
原因不明の患者13人中5人で抗PHEX自己抗体を検出
シンチグラムや静脈サンプリングなどの検査によって腫瘍が確認できず、原因不明の後天性FGF23関連低リン血症性骨軟化症と判断された13人の患者の血液中に、この病気の発症に関連すると予想される自己抗体が存在するかを調べた。具体的には、血液中の自己抗体を高感度で検出できる「ルシフェラーゼ免疫沈降システム(LIPS)」を用いて、遺伝性のFGF23関連低リン血症の発症に関与することが知られているPHEXを含む4つのタンパク質に対する自己抗体の有無を評価した。また、LIPSで検出された自己抗体はフローサイトメトリーを用いてさらなる確認を行った。
その結果、原因不明の後天性FGF23関連低リン血症性骨軟化症の患者13人のうち、5人(38%)においてPHEXタンパク質に対する自己抗体(抗PHEX自己抗体)が検出された。5人のうち4人はLIPSおよびフローサイトメトリーの両方で確認され、1人はフローサイトメトリーのみで検出された。一方、原因となるFGF23産生腫瘍が見つかっている腫瘍性骨軟化症の患者や遺伝性のFGF23関連低リン血症性疾患であるX染色体連鎖性くる病・骨軟化症の患者、および他の内分泌疾患をもつ患者では、抗PHEX自己抗体は検出されなかった。また、他の3つのタンパク質に対する自己抗体が検出された患者は認められなかった。
新たな病態を「自己免疫性骨軟化症」と命名
研究グループは、今回の研究により発見された自己免疫の異常によって骨軟化症を起こす新しい病態を「自己免疫性骨軟化症(autoimmune osteomalacia:AIO)」と命名した。これは、従来の腫瘍性骨軟化症とは病気の成り立ちが異なる。抗PHEX自己抗体が、生体におけるリンの感知を担っているPHEXタンパク質の機能を阻害することで、慢性低リン血症を引き起こし、骨軟化症の発症に至ると考えられる。また、抗PHEX自己抗体が認められる患者の疾患重症度は、腫瘍性骨軟化症患者と比べて軽度で、X染色体連鎖性くる病・骨軟化症患者と類似していることも判明した。
骨軟化症は、珍しい病気であるために的確な診断がなされず、適切な治療を受けられずに車いす移動や寝たきりの生活を余儀なくされている患者が多く存在すると考えられている。今回の新しい骨軟化症の病態の発見を契機に、この疾患に関する知識と理解が広まり、正しく骨軟化症と診断され適切な治療を受けて社会復帰できる患者が増えることが期待される。
骨軟化症の正確な診断に貢献、未知の自己免疫疾患の汎用的な検出の流れも確立
この研究成果は、これまで腫瘍が見つからず原因不明とされていた後天性FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の患者に対して、新たな診断方法や治療方法が適用できるようになる可能性を示している。また今後、後天性FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症に対する迅速で患者の体に対する負担が少ない診断手順の確立にも役立つことが期待される。
「本研究で確立した未知の自己抗体の検出と確認の流れは、さまざまな臨床分野において原因不明とされている後天性疾患を引き起こしていると考えられる自己免疫疾患の発見に応用できる可能性がある。今後は診療科や研究機関の垣根を越えた共同研究の推進を目指したい」と研究グループは述べている。
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