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プラダー・ウィリー症候群、初の「後期症状」モデルマウスを報告-科学大ほか

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2025年02月05日 AM09:20

レトロウイルス由来RTL8、近年神経疾患との関連が示唆されている

東京科学大学は1月29日、レトロウイルス由来の遺伝子Rtl8a、Rtl8bが、成体期における肥満、運動性の低下、社交性の低下、および鬱様症状に関与する重要な働きを持つことを突き止めたと発表した。この研究は、同大リサーチインフラ・マネージメント機構の石野史敏名誉教授(非常勤講師)、理化学研究所生命医科学研究センター非コードゲノム機能研究グループの藤岡慶史特別研究員(研究当時:東京科学大学実験動物センター大学院卓越研究生)、東海大学の金児-石野知子客員教授、東京科学大学実験動物センターの金井正美教授、山梨大学らの研究グループによるもの。研究成果は、「Open Biology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

研究グループは、2006年および2008年に、ウイルス由来の哺乳類特異的遺伝子であるPEG10およびPEG11/RTL1が胎盤形成に必須の機能を持つことを報告した。その後、これらと相同性を持つRTL/SIRH遺伝子群の解析を進めてきた。

近年、(AS)患者由来のiPS細胞から作成された神経細胞において、PEG10タンパク質とともにRTL8タンパク質が過剰に蓄積していることが報告され、これらの遺伝子が疾患と関連している可能性が示された。、Rtl8cはX染色体上にクラスターを形成する3つの相同遺伝子だが、これらがなぜ3つ存在しているのか、またその具体的な機能については明らかになっていなかった。

Rtl8a+Rtl8b欠失マウスはPWS後期症状と類似の特徴、前頭前野でGABRB2の発現低下

Rtl8a、Rtl8b、Rtl8cのうちRtl8aとRtl8bを欠失させたマウスは、成体期から体重が増加し、肥満症状を示した。また、活動性の低下、社交性の低下、鬱様行動などの異常も観察され、このKOマウスの症状は、プラダー・ウィリー症候群(PWS)の後期症状の特徴と非常に似ていた。

RTL8aとRTL8bタンパク質は、脳の前頭前野および視床下部で発現しており、KOマウスの異常な表現型はこれらの脳領域の機能不全によるものと考えられる。前頭前野の遺伝子発現解析では、抑制性神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)の受容体で神経疾患に関連するGABRB2の発現が低下していることが示され、タンパク質レベルでもその発現低下が確認されこの減少がさまざまな行動異常の原因となっていると考えられる。

ASやPWSの原因遺伝子UBE3Aの標的となるRTL8、KOマウスは疾患研究に寄与する可能性

近年、ASにおけるRTL8タンパク質の過剰発現が報告されている。この症候群は、PWSと同じ染色体領域において、父親性の2倍体やその領域に含まれる母親性発現遺伝子UBE3Aの変異が原因であることが知られている。

RTL8タンパク質はUBE3Aの標的であり、PWSではRTL8の発現が減少していると考えられる。このため、Rtl8aおよびRtl8bを欠失させたKOマウスは、PWSの優れたモデルになる可能性がある。

これまで、PWSの初期症状を再現するモデルマウスは存在していたが、後期症状を再現するモデルマウスは報告されていなかった。今回の研究によって、PWSの後期症状に関する発症機構の解明や新規治療薬の開発が進むことが期待される。

ウイルス由来の獲得遺伝子、ヒト疾患における重要性を示唆

さらに、ヒトゲノム内に含まれるウイルス由来の獲得遺伝子が重要な機能を果たしているという知見は、その意外性のみならず、医学や生物学における重要性の認識を広げるきっかけとなるだろう。

ウイルス由来の獲得遺伝子は、PEG11/RTL1が指定難病である鏡―緒方症候群に、RTL4/SIRH11が自閉症スペクトラム症(ASD)に関連するなど、ヒト疾患に深く関係していることが示されている。今回の研究で、RTL8がPWSに関与する可能性が示されたことで、ウイルス由来の獲得遺伝子のヒト疾患における重要性がさらに明らかになった。

「これまで、ヒトゲノム内に存在するウイルス由来のDNA配列はゴミとみなされ、長らく無視されてきた。しかし、これらの配列には多数の未知の重要遺伝子が含まれている可能性があり、この分野の研究を一層推進する必要性が示された」と、研究グループは述べている。

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