ASDの原因遺伝子の一つRTL4、脳内発現量が極めて少なく機能の実態は未解明
東海大学は1月20日、自閉スペクトラム症(ASD)の原因遺伝子と考えられているRTL4(Retrotransposon Gag-like 4)が脳の免疫細胞であるミクログリアで発現し、覚醒、注意、新規環境への適応に重要な働きをするノルアドレナリン(NA)に反応して増加することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部の金児-石野知子客員教授、東京科学大学名誉教授兼同大学リサーチインフラ・マネージメント機構の石野史敏非常勤講師、東京科学大学難治疾患研究所未来ゲノム研究開発支援室の平岡洋一助教、鈴木亨助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Molecular Science」に掲載されている。

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ASDは、発達障害の一つで、人とのコミュニケーションが苦手・物事に強いこだわりがあるといった特徴を持つ。かつての、自閉症やアスペルガー症候群、広汎性発達障害などを含む。ウイルス由来の哺乳類特異的遺伝子であるRTL4の遺伝子変異は、頻度は低いもののASD患者で見つかり、原因遺伝子の一つと考えられている。しかし、脳内での発現量が極めて少ないことから、脳での機能の実態は長い間不明だった。
研究グループは2015年、RTL4を欠損させたマウス(当時Sirh11/Zcchc16遺伝子として報告)が、衝動性の亢進、新規環境への適応性の減少、短期空間記憶の低下などを示すことや、脳の前頭前野において、神経伝達物質・ホルモンの一種で、強い感情や人体がストレスを感じた時に放出されるNA量の回復が遅れることを報告した。
RTL4レポーターマウス作製、脳の発現部位や動態を確認
研究グループはゲノム編集によって蛍光タンパク質VenusをつなげたRTL4タンパク質(RTL4CVタンパク質)を体内で合成するノックインマウス(KIマウス)を作製した。合成されたRTL4CVタンパク質の脳内発現部位や動態の詳細を解析するため、Venusの蛍光だけを計算的に抽出できる機能を持つ共焦点レーザー顕微鏡を用いた観察を行った。
NA機能を真似るイソプロテレノールへの反応のほか、ミクログリアでの特異的発現も判明
その結果、RTL4CVタンパク質が生後脳の視床下部、中脳、扁桃体、海馬で発現することを確認した。また、KIマウスにさまざまな刺激(匂い・音・明るさなど)を与えることでシグナル量が増え、NAの機能を真似るイソプロテレノールに反応することや、脳の免疫細胞であるミクログリアで特異的に発現することなどが明らかになった。ミクログリアは、さまざまな精神疾患への関与が示唆されているが、ミクログリア特異的遺伝子がASDの発症に関与していることを今回初めて明らかにした。
RTL4タンパク質の脳内動態解明、ASDの機序解明や治療薬開発に寄与する可能性
新生仔が母親の匂いを認識するなど、新しい環境へ適応する時期に、NAに反応性を示すRTL4タンパク質がミクログリアから分泌されることが明らかになった。ASDの発症につながるRTL4タンパク質の脳内動態が示されたことは、疾患作用機序の解明に向けた大きな一歩であり、新しい治療薬の開発に寄与する可能性がある。
ヒトの進化におけるレトロウイルス由来遺伝子の寄与についても示唆
ASDの発症に関係する重要な脳機能を持つ遺伝子が、大昔に感染したレトロウイルスのDNAを利用した遺伝子であることは、ヒトを含む哺乳類の進化にウイルスが非常に大きく関与していることを示唆している。ヒトのゲノムの遺伝子部分は1.5%であるにもかかわらず、RTL/SIRH遺伝子のような内在性レトロウイルスは9%を占めている。「これらは長らく研究の対象外とされてきたが、多数のレトロウイルス由来の未知遺伝子が存在し、ヒトの進化に関与したものがある可能性が期待できる」と、研究グループは述べている。
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