PH診断支援に向け、心電図、胸部X線、BNPのデータを統合する深層学習モデルを開発
東京大学医学部附属病院は1月16日、心電図、胸部X線、BNPを統合した肺高血圧症(PH)診断支援AIモデルを開発したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院循環器内科の岸川理紗特任臨床医、小寺聡特任講師(病院)、武田憲彦教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Heart Journal – Digital Health」に掲載されている。

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PHは初期症状が非特異的であるため診断までに長期間を要し、診断遅延が患者の予後に大きな影響を与える疾患だ。研究グループは今回、PHの早期診断を支援するため、心電図(ECG)、胸部X線(CXR)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の3つの検査データを統合する深層学習モデルを開発した。これらの検査は非侵襲的でコスト効率が良く、特別なスキルを必要としないため、臨床現場で広く利用されている。
ECGモデルには、約12万件の心電図データを基に構築されたCNNを使用
まず、ECG、CXR、BNPの各データから特徴を抽出する個別モデルを構築。ECGモデルには12万3,260件の心電図データを基に構築された畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を使用し、CXRモデルでは、深い層のネットワークにおける学習の難しさを克服するために残差学習(residual learning)という手法を採用しているResNet18を採用して胸部X線データを解析した。BNPモデルでは、血液検査値を基にロジスティック回帰を用いてPHのリスクを予測した。
AUC=0.872、医師の診断精度が65.0%から74.0%に向上
次に、これらの個別モデルの出力値を統合し、3層の全結合ニューラルネットワークによるエンサンブル学習モデルを開発した。モデルの性能評価では、受信者動作特性曲線下面積(AUC)が0.872という高い数値を示し、特に医師がAIモデルを使用した場合の診断精度が65.0%から74.0%へ向上し、統計的に有意な改善が確認された(P <0.01)。
診断の精度向上に加え、AIモデルはPHの可能性を数値として示すことで、医師が患者の次の検査や治療方針を迅速に決定できるサポートを提供する。この研究で使用されたデータは日本国内の7施設から収集されたものであり、約12万件以上の症例を含む大規模データを活用した点も重要な特徴だ。
早期診断の実現だけでなく、非専門医の診断制度向上や他疾患の診断支援にも期待
同モデルの活用により、診断の遅れを短縮し、患者の予後改善に寄与するだけでなく、非専門医でも診断精度を向上させる可能性がある。これは、特にプライマリケア医が早期に専門医へ紹介する判断を支援する効果が期待される。
「本研究成果は、肺高血圧症に限らず、他の疾患の診断支援にも応用可能なマルチモダリティAIモデルの開発への道を開くものであり、広く医療分野でのAI活用を加速させる基盤となることが期待される」と、研究グループは述べている。
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