尿アルブミン定量測定の保険適用、範囲が限定的
日本腎臓病協会 (KRI-J)とバイエル薬品株式会社は1月9日、慢性腎臓病(CKD)の診断において、腎障害の指標である尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)は糖尿病の合併有無にかかわらず、他の指標と比べ費用対効果が高いことを明らかにしたと発表した。

CKDの診断は、腎障害の指標、糸球体濾過量(GFR)低下のいずれか、または両方が3か月を越えて持続することが要件となっている。腎障害の指標としては特に、尿タンパク/クレアチニン比(UPCR)が0.15g/gCr以上のタンパク尿、またはUACRが30mg/gCr以上のアルブミン尿の存在が重要だ。また、CKDの重症度判定においても、タンパク尿もしくはアルブミン尿の評価が必須であり、評価法としては尿アルブミン定量測定がゴールドスタンダードとされている。
日本の保険診療では、UACRを算出するために必要な尿アルブミン定量測定の保険請求が、糖尿病または糖尿病性早期腎症であり、微量アルブミン尿を疑う患者(糖尿病性腎症第1期または第2期)に対して行った場合に、3か月に1回に限られている。一方、諸外国ではCKD全般で尿アルブミン定量測定が行われている。CKDの定義や重症度分類も、国際的には尿アルブミン定量測定を基に行われているが、日本では尿タンパク排泄量で代用せざるを得ない状況となっている。
UACRの費用対効果をUPCRおよび尿検査をしない場合で比較
こうした実態を踏まえ、厚生労働省腎疾患政策研究事業「腎疾患対策検討会報告書に基づく対策の進捗管理および新たな対策の提言に資するエビデンス構築」研究班(代表 柏原直樹)が、「尿中アルブミン測定の診療報酬化」に取り組むことになった。
今回の研究では、同協会とバイエル薬品が、腎臓病対策の普及啓発に関する包括連携協定の一環として、CKDの診断にUACRがより適切に使用できるようにするため、2型糖尿病患者、非糖尿病患者それぞれを対象に、UACRの医療経済評価を行った。各患者集団において、医療経済モデルを用いてUACRの費用対効果をUPCRおよび尿検査をしない場合と比較検討した。治療効果の指標にはQOL値の一つの指標であるQALYを使用した。
糖尿病の合併有無にかかわらずUACRに高い費用対効果
その結果、2型糖尿病患者のUACRを定期的にチェックし、CKD患者の早期診断・治療介入を行うことは、尿検査をしない場合と比較して、費用対効果が高いことが示された。費用対効果の指標である増分費用効果比(ICER)は265万2,693円/質調整生存年(QALY)だった。
また、非糖尿病患者のUACRを定期的にチェックし、CKD患者の早期診断・治療介入を行うことも、尿検査をしない場合またはUPCRのチェックと比較して、費用対効果が高いことが示された。ICERは196万6,433円/QALYだった。
尿アルブミン定量測定の保険適用拡大に期待
ICERは、医薬品や検査などの新たな医療技術により追加でかかる費用が、追加で得られる効果に見合っているかどうかを評価する指標である。費用の増分を分子、治療効果の向上量を分母として計算し、ICERの値が小さいほど費用対効果が高いとみなされる。日本の公的医療保険制度では、保険償還価格を設定する際のICER標準基準額が500万円/QALY以下に設定されていることから、研究結果は日本の医療環境下において費用対効果が高いと判断できる。
研究成果について、同会の柏原直樹理事長は次のように述べている。「生活習慣の変化、高齢化を背景に腎臓病が増加している。中でもCKDは生活習慣病であり、予防可能だ。また早期発見、治療により予後は大きく変わる。日本では、糖尿病において尿アルブミン定量測定が保険適用されているが、現在まだ保険適用されていない非糖尿病患者への費用対効果もよいことが今回明らかになった。腎臓病の克服のために、日本も諸外国と同じように、糖尿病の合併有無にかかわらず、尿アルブミン定量測定が保険適用されることが重要だ」。
▼関連リンク
・日本腎臓病協会 プレスリリース