医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 21qモノソミーiPS細胞作製、欠失機序解明・治療開発に期待-東京薬科大ほか

21qモノソミーiPS細胞作製、欠失機序解明・治療開発に期待-東京薬科大ほか

読了時間:約 3分27秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2025年01月23日 AM09:20

重篤な症状を伴う染色体欠失、モデル細胞の作製困難のため研究は停滞

東京薬科大学は1月15日、CRISPR/Cas9によるゲノム編集を用いて、2コピーあるヒト21番染色体のうち1コピーの長腕(21q)ほぼ全長(約3360万塩基対)を欠失した、21qモノソミーiPS細胞の構築に世界で初めて成功したと発表した。この研究は、同大生命科学部応用生命科学科の冨塚一磨教授、宇野愛海助教、鳥取大学医学部生命科学科/染色体工学研究センターの香月康宏教授、公益財団法人東京都医学総合研究所幹細胞プロジェクトの鈴木輝彦主席研究員、東京科学大学生命理工学院の相澤康則准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Genes to Cells」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒト2倍体細胞は2組の染色体を維持しており、これは増殖に不可欠である。一般に、それぞれ2本ある常染色体のうち1本、またはその長腕あるいは短腕全体を欠損するヒト細胞は生存できないとされている。一方染色体の部分的な欠損によって生じる染色体欠失は、重篤な臨床症状を伴うが、この原因は、欠損し1コピーとなった(モノソミー化した)染色体領域に含まれる遺伝子の発現量が半分に低下することと考えられている。このように、生物学的、臨床的に重要な現象であるにもかかわらず、染色体欠失に関する研究はこれまでほとんど進んでいなかった。

その背景には、染色体の喪失が細胞に与える影響を研究するための適切なモデル細胞の作製が困難という事実があった。正常2倍体細胞で染色体欠失を誘導するため、CRISPR/Cas9を利用したゲノム編集技術をはじめ、さまざまな手法が試みられてきたが、欠失効率は非常に低く、また薬剤耐性などで染色体欠失細胞を選抜する煩雑な工程が必要だった。そのため、より高い効率で正確に、かつ選択培養なしに特定のヒト染色体領域を欠失させる技術の開発が強く求められていた。

部分モノソミーヒトiPS細胞パネルを簡便かつ高効率に単離する方法開発

今回の研究では、CRISPR/Cas9を介したメガベーススケールの染色体欠失により、部分モノソミーヒトiPS細胞パネルを作製する簡便かつ効率的な方法を開発した。まず21番染色体(HSA21)をモデルとして、HSA21の長腕(21q)の大部分をカバーするさまざまな領域(4.5~33.6 Mb)を欠失させるガイドRNA(gRNA)をデザインした。Cas9/gRNA-リボ核タンパク質(RNP)複合体をトランスフェクションした後、蛍光活性化セルソーティング(FACS)による単一細胞ソーティングを用いて、目的の欠失を持つ部分モノソミー21qiPS細胞を選択培養なしで高効率(0.6%から18.6%)に単離した。

21qモノソミーiPS細胞樹立に成功、モノソミー領域内遺伝子の発現レベルはおよそ半分と判明

それぞれの部分モノソミー21qiPS細胞において、倍加時間は親細胞と同等であり、核型は極めて安定で、HSA21以外の染色体は正常だった。さらに驚くべきことに、21q上の全タンパク質コード遺伝子(211個)を含む21qの大部分(33.6 Mb)の欠失にも成功し、世界で初めて21qモノソミーヒトiPS細胞が樹立された。部分モノソミー21qiPS細胞のトランスクリプトームおよびプロテオーム解析の結果、モノソミー領域内の遺伝子によってコードされるmRNAおよびタンパク質の発現量は、概ね2倍体発現レベルの半分であることが明らかとなり、転写および翻訳レベルでの遺伝子量補償が起こっていないことが示された。

染色体欠失の発生過程への影響解明やダウン症などの治療法開発につながると期待

今回の研究で開発されたシンプルかつ効率的な染色体欠失誘導技術は、正常核型バックグラウンドに部分モノソミーを持つ、同一な遺伝的背景の(アイソジェニック)モデル細胞の作製に有用であり、染色体欠失の細胞への影響に関する新たな知見を得るために広く応用可能であると期待される。具体的には以下1)~4)に示す展開が期待される。

1)染色体欠失の発生過程における影響の解明:分化多能性を有するヒトiPS細胞を親株に用いているため、特定の染色体欠損が発生過程に与える影響を試験管内分化系によって調べることができる。ヒト21番染色体部分モノソミー症は、心臓障害、発達遅延、知的障害などさまざまな表現型を示す希少疾患であり、21q上の欠失領域に関連する症状の原因遺伝子を同定するための貴重な研究資材となる。

2)細胞増殖に必須な配列のスクリーニング:本技術によって、細胞増殖に必須なタンパク質コード領域および非コード領域の配列を系統的にスクリーニングすることが可能となり、合成生物学の課題の一つであるヒトゲノムの最小化に向けた研究が加速すると期待される。

3)ヒト人工染色体(HAC)の構築:再生医療や遺伝子治療への応用が期待されるHACの構築が容易になる。研究グループが開発したHSA21由来のHACは、1コピーでの安定維持や導入遺伝子のサイズに制限がないなど、遺伝子導入ベクターとしていくつかの利点があり、その有用性が実証されている。しかし、その構築は複雑で時間を要するプロセスである。所望の染色体領域を正確に欠失可能な本技術を用いて、臨床グレードのヒトiPS細胞でHACを構築できれば、その臨床応用が加速すると期待される。

4)ダウン症研究および治療法の開発:本技術はHSA21の特定の染色体領域を正確に欠失させることができるため、ダウン症(21番染色体トリソミー)に伴うさまざまな症状の原因遺伝子の解明と治療標的の同定、および新規治療法の開発に貢献すると期待される。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 【インフル流行レベルマップ第6週】報告数減、36都府県で注意報・警報解除-感染研
  • 「慢性足関節不安定症」の歩行時の骨の動きを動的に解明-広島大ほか
  • 心の状態、ウェアラブル心電計で客観的評価に成功-金沢大ほか
  • HPV関連頭頸部がんの新しい分類法確立、個別化医療への応用期待-阪大ほか
  • 多発性嚢胞腎、「一次線毛にコレステロール供給」が新規治療となる可能性-山口大ほか