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がん免疫療法、自己免疫による副作用を起こさない新規治療法開発-阪大

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2024年11月29日 AM09:30

がん免疫を強力に抑制するTh1-TregだけをTMEから除く方法は未開発

大阪大学は11月18日、腫瘍内のアルギナーゼ1()を産生するマクロファージ(+ )が産生するケモカインPF4がTh1-Tregを誘導し、がん免疫を抑制することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院生命機能研究科の倉谷歩見大学院生、微生物病研究所感染病態分野の山本雅裕教授(免疫学フロンティア研究センター、感染症総合教育研究拠点兼任)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

腫瘍組織は、腫瘍細胞のほかに免疫細胞、線維芽細胞、血管上皮細胞などが含まれており、腫瘍微小環境(TME)を形成している。その構成細胞の1つである制御性T細胞()はヘルパーT細胞(CD4+ T細胞)の亜集団(サブセット)であり、免疫恒常性の維持と自己免疫の抑制に重要な役割を果たす。Tregの中でも、(Th1-Treg)と呼ばれるサブセットは腫瘍組織に多く蓄積し、がん免疫を抑制する。Th1-Tregだけ除去する方法は、現在がんの免疫治療で用いられている全Tregの除去(あるいは機能不全)でみられる「自己免疫による副作用」(免疫関連副作用)を引き起こしにくく安全であると考えられているため、有望ながん免疫療法のアプローチとして期待されている。しかし、Th1-TregがTMEに大量に集積する分子メカニズムについてはほとんど解明されておらず、またTh1-Tregだけを除く方法も今のところ開発されていない。

腫瘍内のマクロファージがTh1-Tregの蓄積に関与するのかを検証

一方、マクロファージは自然免疫細胞の一種で病原体に対する宿主免疫応答に重要だが、腫瘍内にも高度に蓄積することがわかっており、特に腫瘍内のマクロファージはTAM(腫瘍随伴マクロファージ)と呼ばれている。先行研究において、体内の全マクロファージの枯渇によりTMEのTregが減少することが示されており、TMEにおけるTh1-Tregの高度な集積にマクロファージが関与している可能性が考えられる。そこで今回の研究ではマクロファージ全体ではなく、腫瘍内のマクロファージ、すなわち、TAMが腫瘍内のTh1-Tregの蓄積に関与するのかを正確に評価できる実験系を構築し、その分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。

Arg1+ TAMを除去した腫瘍移植マウス、Th1-Treg低下し腫瘍増殖が抑制

TAMは他の組織のマクロファージと比べてArg1という遺伝子の発現が高いことに着目し、2種類の遺伝子の発現で特徴づけられた任意の細胞集団を標識し除去できる新型マウスシステム(VeDTRマウス)を用いて、TAMを標的化した新規マウスを作製した。具体的にはマクロファージ標識遺伝子であるCx3cr1とTAM標識遺伝子Arg1を組み合わせ、Cx3cr1-Cre/Arg1-Flp/VeDTRマウスを作製した。このマウスを用いて、腫瘍を移植し、ジフテリア毒素によってArg1+ TAMだけを選択的に除去した結果、腫瘍内のTh1-Tregの割合が低下し、さらにがん免疫が強く活性化しており、腫瘍の増殖が抑制されていた。

Arg1+ TAM由来のケモカインPF4がTh1-Treg分化を誘導と示唆

次に、Arg1+ TAMがTregのTh1-Tregへの分化誘導に関与するか検討した。その結果、Arg1+TAMとの間接共培養群において、TregからTh1-Tregへの分化が誘導された。

Th1-Treg分化を誘導するArg1+ TAM由来の液性因子を解析したところ、Th1-Treg分極を誘導する液性因子としてケモカインであるPF4と呼ばれる分子を同定した。

さらに生体内でのPF4の機能を調べるために、PF4欠損マウスを作製し、解析を行った結果、PF4欠損マウスの腫瘍組織では野生型に比べ腫瘍の増殖が抑制され、腫瘍内のTh1-Tregの割合が減少していた。

PF4中和抗体は担がんマウスのがん免疫活性化、自己免疫は活性化させない

最後に、PF4の機能を阻害するPF4中和抗体(#6-1-5)を作製し、担がんマウスに投与した結果、腫瘍内のTh1-Tregの割合の低下とがん免疫の強い活性化が起き、腫瘍の増殖が抑制された。さらにPF4中和抗体の投与によって自己免疫が起きるかを検討した結果、全Tregの除去によって起きるような免疫細胞の活性化やそれに伴う体重減少なども全く起きず、高い安全性が示唆された。さらにPF4中和抗体の薬効は全Tregの除去(または機能不全)を起こす抗CTLA4抗体投与と同等だった。

Th1-Tregの分化阻害し自己免疫起こさないPF4、新規創薬標的として期待

研究結果から、Arg1+ TAMより産生される液性因子PF4は腫瘍内においてTh1-Tregを誘導し、がん免疫を抑制することにより腫瘍の増殖を促進することが明らかになった。そしてPF4の阻害はTh1-Tregの分化を阻害し、自己免疫を起こすことなく安全かつ全Treg除去と同等に腫瘍の増殖を抑制できることがわかった。

また、今回の研究によりPF4の阻害はがん免疫を活性化し、腫瘍の増殖が抑制されることが明らかとなった。「TCGAデータベースによると腫瘍内のPF4の高発現やマクロファージの高度な蓄積は予後不良と相関があることを示している。そのためPF4は自己免疫になることなく抗腫瘍免疫治療ができる新規創薬標的となることが大いに期待される。」と、研究グループは述べている。

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