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エムポックス感染者の隔離終了タイミングを検証可能なシミュレータ開発-名大ほか

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2024年08月30日 AM09:30

米CDCはすべての症例に約3週間の隔離を推奨、妥当か?

名古屋大学は8月27日、(クレードII)感染者の隔離を終了するタイミングを検証するためのシミュレータ(シミュレーション用ソフトウェア)を新たに開発したと発表した。この研究は、同大大学院理学研究科の岩見真吾教授、オランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)、愛媛大学の三浦郁修博士らとの共同研究によるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

2022年5月以降に、世界的な規模で発生した新しいクレード(クレードIIb)のエムポックスが欧米諸国を中心に国際的流行へと拡大し、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当するとして世界保健機関(WHO)より宣言された。クレードIIbの世界的な患者数は2022年8月に減少に転じたものの、2023年年末から現在まで、コンゴ民主共和国ではより重症率の高いことが報告されている別クレード(クレードI)のエムポックス感染者数が増加し、ケニアやルワンダなどアフリカ諸国でのクレードI感染者の増加と蔓延を受けて、2024年8月14日、WHOは再びPHEICを宣言した。これは、公衆衛生に対する最高レベルの警告であり、今回の宣言は2度目となる。

感染症対策では、医薬品を使用しない非薬物的介入(感染者隔離、感染者に接触した人の自宅待機など)が中心的な役割を果たしてきた。現在、米国疾病予防管理センター()は、エムポックス感染者に対する約3週間の隔離を推奨している。しかし、このガイドラインは臨床的特徴に関係なくすべての症例に適用されるため、感染性期間が長い症例では隔離終了が早すぎたり、感染性期間が短い症例では隔離期間が不必要に長引いたりする危険性がある。現在、エムポックスの感染伝播を予防するために、確かな科学的根拠に基づいた隔離終了のガイドラインが必要であり、これらを包括的に分析する研究が求められている。

隔離期間約3週間では95%以上の伝播防止が可能、現行ルールの妥当性を確認

研究グループは今回、個人毎のウイルス量データの解析により感染性期間の大きなばらつきを明らかにし、変動する感染性を考慮しながら隔離終了ルールの違いによる有効性を評価した。具体的には、固定期間ルール(一定期間後に隔離を終了する現行ルール)、PCR検査結果に基づくルール(定められた回数の陰性検査結果で隔離を終了するルール)、症状に基づくルール(症状の消失後に隔離を終了するルール)を比較した。

数理モデルを用いた推定の結果、ウイルス排出期間は23日~50日の範囲であり、個人毎に排出期間が大きく異なることが示唆された。約3週間という現在の隔離ガイドラインは、95%以上の伝播防止が可能であり、感染者が隔離を早期に終了するリスク(他者への感染性を維持したまま隔離を終了してしまうリスク)を軽減させるという観点では妥当であることがわかった。

PCR検査結果により、隔離期間を不必要に長くせず効果的に管理できる可能性

一方、PCR検査結果に基づくルールでは、個人レベルのウイルス量の変動を考慮できるため、不必要に長期化する隔離期間を緩和できる可能性があることがわかった。つまり、定められた回数の陰性検査結果が得られた場合に、エムポックス感染者の隔離を早期終了できる柔軟で安全な隔離戦略が提案できるようになる。たとえば、隔離の早期終了リスクを5%未満に抑えたい場合、症状消失を基準にした一般的な隔離終了と比較して、シミュレータで最適化したPCR検査結果に基づく隔離終了では、1週間以上も隔離日数を減らすことが可能だった。これらの知見は、現在の3週間の隔離ルールを科学的に裏付ける重要な根拠となる。また、検査による隔離終了ルールを導入することで、隔離期間を不必要に長くすることなく、効果的に管理できる可能性を示した。

分析対象のエムポックス感染者のうち約32%はウイルス排出期間が平均より5~10日短い

エムポックスの感染リスクに関するこれまでの研究では、性的接触者数やパートナー数の個人差に焦点が当てられてきた一方で、ウイルス排出期間の違いにはあまり注目されてこなかった。しかし、分析対象のエムポックス感染者のうち約32%が、ウイルス排出期間が平均より5~10日短いことが今回の研究により明らかになった。このような人のウイルス伝播寄与は短期間に限られ、その結果、二次感染者数がより少なくなると考えられる。一方、エムポックス感染者の一部は、平均よりも著しく長くウイルス排出しうる(すなわち長く感染伝播に寄与する)こともわかった。つまり、PCR検査結果に基づく隔離終了ルールをうまく設計することで、リスクを抑えつつ隔離期間を最適化できる可能性がある。

研究成果は、クレードIのエムポックス感染者においても重要な知見となる可能性

異なる隔離終了ルールの利点と欠点を慎重に検討することが不可欠であり、医薬品を使用しない非薬物的介入を効果的に実施できるようにすることは、将来発生するその他の感染症に対しても、迅速で効率的に対応するための礎にもなる。研究では、隔離終了タイミングのシミュレータ開発によって隔離ガイドラインの確立に貢献するだけではなく、疾患の超早期(未病)におけるウイルス排出のばらつきをヒト個人レベルで考慮する数理的手法を提案している。また、将来的には、感染の超早期(未病)段階においてウイルス排出期間を予測する医学的対策を開発することで、エムポックスの隔離期間の緩和によるより簡便な感染症対策が実施可能になるかもしれない。

「今回の研究はクレードIIのエムポックス感染者における成果であるが、クレードIのエムポックス感染者においても、同様のデータがあれば適切な隔離期間の設定が可能になるため、この研究はクレードIにおいても重要な示唆を提供する可能性がある」と、研究グループは述べている。

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