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膀胱がん再発を侵襲なく早期に診断、尿中DNAモニタリング検査開発-岩手医科大ほか

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2024年02月09日 AM09:30

尿中DNA、膀胱がんの再発診断バイオマーカーとなりうるかは未検証

岩手医科大学は1月31日、膀胱がん患者尿中に存在するがん細胞由来のDNAを高感度核酸定量技術であるデジタルPCR(dPCR)を用いた独自の技術でモニタリングすることで、膀胱がんの早期の再発予測や治療効果の評価が可能であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医歯薬総合研究所医療開発研究部門の阿部正和大学院生、西塚哲特任教授、泌尿器科学の小原航教授、岩手県立中央病院の小野貞英病理診断科科長、藤澤宏光泌尿器科科長、札幌医科大学医学部附属がん研究所ゲノム医科学部門の時野隆至教授、井戸川雅史准教授、(韓国)のWoong-Yang Park博士らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Molecular Diagnostics」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

従来の膀胱がんの再発診断に用いられる膀胱鏡検査は患者の負担が大きく、尿細胞診検査は感度が低い事が指摘されている。また、膀胱がんの再発診断や治療効果判定に有用な血液や尿中バイオマーカーに乏しく、患者負担が少なくかつ高感度なバイオマーカーの開発が求められている。近年、膀胱がん患者の尿中に含まれるDNAを調べるとがん細胞由来の遺伝子変異が検出されることが知られ、診断バイオマーカーとして期待されている。その一方、膀胱がん患者尿中DNAの遺伝子変異を治療経過に合わせて繰り返しモニタリングし、「再発診断バイオマーカー」としての妥当性を検証した報告はまだなかった。

尿中/血中VAFをdPCRでモニタリング、「再発の早期検出」や「治療効果の評価」を検証

研究グループは、膀胱がん患者治療前後の尿沈渣(以下、尿中)から抽出したDNA中の遺伝子変異をdPCRを用いてモニタリングし、その早期再発診断バイオマーカーとしての妥当性を検討した。尿中には正常細胞も大量に含まれるため、膀胱がん細胞由来の遺伝子変異の割合は極めて少なくなっている。また、膀胱がん患者では尿中と同様に血液中でもがん細胞由来DNAが検出されることがある。今回、尿中の遺伝子変異とともに血中でも膀胱がん細胞由来DNAを測定した。

この研究では、膀胱がんに対して過去に手術を行なった症例15例と、新規に治療を行った17例の計32例を対象とした。転移のない膀胱がんに対して初期治療として行われる経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)で得られたがん組織からDNAを抽出した。このがん組織DNAに対して、パネルシークエンス解析とTERTプロモーター領域に対する変異解析を行い、症例ごとに検出された遺伝子変異を尿中および血中のバイオマーカーとして用いた。各種治療前後やその後の定期診察に合わせて採血・採尿を行い、尿中および血中DNAに含まれる遺伝子変異の変異アリル頻度(VAF)をdPCR解析で登録後2年間モニタリングした。dPCR解析のためのプライマープローブセットは、主に同大医歯薬総合研究所医療開発研究部門で開発したライブラリーから選択した。最終的に、既存の検査法(膀胱鏡、尿細胞診、CT)と比較して尿中および血中VAFのモニタリングが、「再発を早期に検出できるか」、「治療効果を評価できるか」について検証した。

尿中DNAでのVAF1%以上、再発した7例中5例で既存検査より7か月以上先に検出

がん組織DNAの遺伝子変異解析により32例中30例(93.8%)でモニタリング可能な遺伝子変異を検出した。1例あたりのモニタリングした変異数は平均2.3個(1~4)で、約90%の症例は同大開発のプローブライブラリーを用いて解析可能だった。観察期間中に再発を生じた7例のうち5例では、既存の検査における再発診断よりも7か月以上先行して尿中DNAで変異をVAF1%以上で検出した。残りの再発した7例中2例では尿中遺伝子変異のVAFは1%より低く微量で推移したが、これらの症例の尿は炎症により混濁しており、尿に含まれる白血球由来の正常DNAによりがん細胞由来のDNAが希釈されていたことが原因と考えられた。また、再発を生じなかった残りの23例はいずれも尿中DNAのVAFは1%以下とごく低値で推移した。

尿が混濁している場合、術後再発例でもVAFが1%以下となる点に注意が必要

観察期間中にTURBTを施行した19例のうち、術後再発を生じた4例中2例は治療後の尿中DNAのVAFは1%以上で持続的に検出・上昇傾向を示したのに対し、残りの2例はVAFが1%以下だったが、この2例は炎症で尿が混濁していた症例だった。このことから尿が混濁している場合は尿中DNAの遺伝子変異検出には注意が必要と思われる。一方、TURBT術後無再発で経過した15例のVAFは全例1%以下で推移していた。

BCG療法後の再発・無再発を精度高く検出

また、観察期間中にBCG療法を施行した13例のうち、BCG療法後に再発した3例はいずれも尿中VAFは1%以上で持続的に検出・上昇したのに対し、BCG後無再発で経過した10例はいずれも尿中VAFは1%以下で推移した。今回の研究で対象とした膀胱がん患者で、「再発を早期に検出できるか」、「治療効果を評価できるか」についての評価において、尿中DNAは有用なバイオマーカーとして期待されることがわかった。一方、今後さらなる検証が必要だが、血中DNAはより進行した患者を対象としたバイオマーカーとして優れていることが想定された。

患者の負担少なく再発を予測、追加治療の適応判断に役立つ可能性

尿中DNAの遺伝子変異モニタリングにより、既存の検査(膀胱鏡や尿細胞診)よりも早期に再発を検出かつ治療効果を評価可能であることが示された。このことから、尿中DNAは膀胱がんのバイオマーカーとして妥当であることが示唆された。

尿中DNAモニタリング検査は、再発がないことを確認できるので、負担の大きい検査である膀胱鏡検査の回数を減少させることができる可能性がある。また、治療効果を評価することで再発を予測できる可能性があり、初回治療後の追加治療の適応判断に役立つ可能性がある。「がんに対する血液を用いたDNAモニタリングは、OTS-アッセイとして自由診療を開始しているが、今後は尿中DNAを用いて同アッセイを行えるよう研究開発を継続する」と、研究グループは述べている。

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