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IBDの発症・病態予測マーカーとして呼気中の水素ガスが有用な可能性-慶大ほか

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2023年11月09日 PM12:11

活動期IBDの非侵襲マーカ―として注目の「呼気成分」、発症や病態変化との関連は?

慶應義塾大学は11月8日、生体の水素ガス濃度や特定の腸内細菌が腸炎の病態と相関することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大薬学部薬学研究科修士課程の藤木雄太氏(研究当時)、同大薬学部の金倫基教授、東京大学大学院工学系研究科の田中貴久助教(研究当時)、内田建教授の研究グループによるもの。研究成果は「Gut Microbiome」電子版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

(Inflammatory bowel disease: IBD)は、遺伝要因や環境要因が複雑に絡むことにより発症すると考えられている炎症性の慢性疾患。患者数は世界的に増加の一途をたどっており、社会経済的にも大きな負担となっている。IBDは再発と寛解が繰り返されることが多く、重症化や慢性化が進行する前に早期介入することが重要だ。しかし、疾患の再発を予測する効果的な手法は、いまだ確立されていない。

現在、IBDの診断には内視鏡検査が最も一般的だが、検査に長時間を要する、高額な費用がかかる、侵襲性が高いなど、いくつかの課題を抱えている。そのため、より簡便で非侵襲的なIBDの診断法の確立が期待されている。その中で、呼気中の成分が新たなIBDのバイオマーカーとして注目されている。実際に、健常者とIBD患者の呼気成分に違いがあることが報告されており、IBDと呼気成分との関連性が示唆されている。しかし、これまでの研究の多くは、症状が強く現れる「活動期」のIBD患者に焦点が当てられており、IBDの発症や病態変化と関連する呼気成分を分析した研究は存在しなかった。

呼気がIBD発症予測マーカーとなり得るか?大腸炎誘導マウスで解析

そこで研究グループは今回、実験的大腸炎誘導マウスの病態と呼気成分を分析することで、呼気がIBDの発症を予測するためのバイオマーカーとなり得るかを評価した。また、IBD患者では、腸内細菌叢の構成が健常者と比べて異なることから、腸炎における炎症過程が腸内細菌を介して呼気成分の変化に現れるのではないかと考えた。そこで、呼気と腸炎の病態に加え、腸内細菌叢の変化についても同時に解析した。

研究では、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を5日間飲水投与することでマウスに大腸炎を誘導し、体重変化および炎症マーカーである糞便中のリポカリン-2濃度を測定した。また、大腸炎の誘導過程において、水素・アンモニア・硫化水素・メタンチオール・エタンチオールの5つの生体由来ガス成分の変化を連続的に分析した。マウス飼育ケージ内の生体由来ガスを、ダイアフラムポンプを用いて取り込み、流路に設置したセンサーガスクロマトグラフを使用して各ガス成分を測定した。

これらの生体ガスと体重およびリポカリン-2濃度について相関解析を実施。さらに、大腸炎誘導マウスにおける腸内細菌叢を経時的に解析し、リポカリン-2濃度・体重・水素濃度との相関解析も行った。

マウスで炎症マーカー「糞便中リポカリン-2濃度」増加を確認

大腸炎誘導時におけるマウスの病態変化を評価した結果、体重減少および糞便中リポカリン-2濃度の増加が観察された。DSS投与5日目から体重の減少が見られ、9日目以降からは回復していった。糞便中リポカリン-2濃度はDSS投与3日目から徐々に上昇し、7日目にピークを迎え、15日目まで高値を維持した。

生体ガスのうち水素濃度が炎症マーカーと強く負の相関

次に、大腸炎病態と関連する生体ガス成分を特定するために、大腸炎を誘発したマウスの生体ガスの濃度変化を測定し、大腸炎の表現型のパラメーターである体重および糞便中リポカリン-2濃度について相関解析を行った。その結果、水素濃度と体重との間には正の相関が、水素濃度とリポカリン-2との間には最も強い負の相関が認められた。これらの結果から、水素濃度は大腸炎の疾患病態と最も強く相関することが示唆された。

特定の腸内細菌群が炎症マーカー/水素濃度と正の相関

さらに、大腸炎を誘発したマウスの腸内細菌叢を経時的に解析した。そして、各腸内細菌の相対存在量と大腸炎における体重変化および糞便中リポカリン-2濃度、および生体の水素ガス濃度との相関を評価したところ、Akkermansiaceae科とRikenellaceae科細菌群の相対存在量がリポカリン-2と正の相関性を示し、体重変化と負の相関を示した。一方、Tannerellaceae科細菌群の相対存在量はリポカリン-2と負の相関を示し、体重変化と正の相関を示した。また、Tannerellaceae科細菌群の相対存在量は水素濃度と強い正の相関を示し、Akkermansiaceae科とRikenellaceae科細菌群の相対存在量は水素濃度と負の相関を示した。以上のことから、特定の腸内細菌の相対存在量が炎症の進展と水素濃度に対してそれぞれ相反する相関を示すことが明らかになった。

呼気中の水素濃度が、IBD発症・病態・治療効果予測のバイオマーカーとなる可能性

今回、実験的大腸炎誘導マウスにおける生体ガス濃度、体重、炎症マーカー(糞便中リポカリン-2濃度)、および腸内細菌叢の構成の連続的・経時的な解析で、水素濃度が大腸炎の転帰と最も強い相関を持つこと、特定の腸内細菌の相対存在量が大腸炎の病態および水素濃度と相関していることが明らかとなった。IBD患者では、健常人と腸内細菌叢の構成が異なることが報告されており、特定の腸内細菌が腸炎の発症・進展と水素濃度との間にある負の相関関係を介在している可能性が示唆された。実際に、実験的大腸炎誘導マウスの体重や水素濃度と正の相関、炎症マーカー(糞便リポカリン-2濃度)と負の相関を持っていたTannerellaceae科細菌群の中には、水素を産生する腸内細菌(Parabacteroides属菌など)も含まれている。

「今後、ヒトでの検証実験を通して、呼気中の水素濃度がIBDの発症・病態、さらには治療効果を予測するためのバイオマーカーとして利用できる可能性が期待される」と、研究グループは述べている。

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