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抗てんかん薬カルバマゼピンによる薬疹、タイプ別リスクHLAアレルを同定-理研ほか

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2023年11月01日 AM11:20

既知HLAアレル検査では全ての患者の薬疹発症を予測できず

(理研)は10月30日、抗てんかん薬カルバマゼピンによって生じる重症薬疹のうち、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)や中毒性表皮壊死融解症(TEN)には特定のHLAアレルである「-B*15:11」、それ以外の薬疹には「-A*31:01」が強く関連することを発見したと発表した。この研究は、同研究所生命医科学研究センターファーマコゲノミクス研究チームの莚田泰誠チームリーダー、福永航也研究員(国立医薬品食品衛生研究所医薬安全科学部協力研究員)、国立医薬品食品衛生研究所医薬安全科学部の斎藤嘉朗部長(研究当時、現 同研究所副所長)、新潟大学大学院医歯学総合研究科の阿部理一郎教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Investigative Dermatology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

カルバマゼピンは、、躁病、躁うつ病の躁状態、統合失調症の興奮状態、三叉神経痛の治療に広く使われている。しかし、薬疹発症率が3.7~13%と非常に高く、治療の上で大きな問題となっている。重症薬疹であるSJSやTEN、薬剤性過敏症症候群(DIHS)、軽症薬疹である播種状紅斑丘疹型薬疹(MPE)、多形紅斑(EM)など多様なタイプの薬疹が存在し、その症状もさまざまだ。いずれの薬疹も重篤化、後遺症または死亡につながる可能性がある。

研究グループは、カルバマゼピンを投薬する前に薬疹が起こりやすい患者を予測するためのバイオマーカーを研究してきた。2011年、理研統合生命医科学研究センター(研究当時、現生命医科学研究センター)は、カルバマゼピンによる薬疹発症例を用いたゲノムワイド関連解析()を行い、HLA-A遺伝子のHLA-A*31:01型を持つ日本人の患者は、同型を持たない患者に比べてカルバマゼピンによる薬疹が9.5倍起こりやすいことを報告している。そして2018年、前向き臨床研究「Genotype-Based Carbamazepine Therapy(GENCAT)study」によってHLA-A*31:01を用いた薬理遺伝学検査が臨床現場において有用であることを実証した。しかし、この検査だけでは全ての患者の薬疹発症を予測することができず、また、異なる薬疹のタイプに関連する遺伝要因の違いも不明であったため、カルバマゼピンによる薬疹のタイプ別の詳細なゲノム解析の実施が待たれていた。

カルバマゼピンによる薬疹発症患者でGWAS+HLA解析

研究グループは今回、カルバマゼピンの服用後SJSまたはTENを生じた患者31人、DIHSを生じた73人、MPEを生じた17人、EMを生じた10人の計131人および日本人一般集団2,823人のゲノムDNAを用いて、GWASとHLA遺伝子の解析を行った。国立医薬品食品衛生研究所および厚生労働省難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)重症多形滲出性紅斑に関する調査研究班によって収集されたコホートをそれぞれコホート1、コホート2とした。各ゲノムDNAの一塩基多型(SNP)のジェノタイピングを行った後、サンプルごと、SNPごとの質を評価し、基準を満たしたサンプル、SNPを選別した。その後、高精度の参照配列を用いてインピュテーション法を行い、解析対象のSNP情報を増やし、さらにSNP情報に基づいてHLAアレル情報を取得した。

各コホートでGWASを行った後、メタ解析でコホートデータを統合した結果、ゲノムワイド有意水準を満たすHLA領域を同定した。HLAアレル情報を用いて詳細な解析を行ったところ、カルバマゼピンによる薬疹とHLA-A*31:01が最も強く関連していることがわかった。

DIHS・MPE・EMとはHLA-A*31:01が、SJS・TENとはHLA-B*15:11が有意に関連

次に、薬疹の種類別にHLA解析を行ったところ、HLA-A*31:01はカルバマゼピンによるDIHS(P値=8.64×10-20、オッズ比=10.1)、MPE(P値=1.51×10-5、オッズ比=9.1)、EM(P値=0.0019、オッズ比=7.4)と関連していたが、SJSおよびTEN(P値=0.0022、オッズ比=3.1)では他の種類の薬疹ほど強い関連を示さなかった。一方、HLA-B*15:11はDIHS、MPE、EMとの関連は有意ではなかったが、SJSおよびTEN(P値=3.02×10-12、オッズ比=18.2)との関連は有意だった。

2つのアレルの遺伝子検査による発症予測に期待

今回の研究では、SJSまたはTEN発症患者におけるHLA-B*15:11の保有率は29%であり、日本人集団における保有率2%と比較して統計的に有意に高頻度であることもわかった。さらに、カルバマゼピンによる薬疹を起こした患者のうちHLA-A*31:01またはHLA-B*15:11のいずれかを持っている人は全体の66%だった。

研究の結果から、HLA-B*15:11を保有する人は、保有しない人に比べてカルバマゼピンによるSJSまたはTENを発症するリスクが高く、HLA-A*31:01を保有する人はそれ以外の薬疹を発症するリスクが高いことが示された。「HLA-B*15:11とHLA-A*31:01を組み合わせた遺伝子検査により、カルバマゼピンの治療開始前でも薬疹の発症リスクを予測することができ、てんかん治療薬の種類を替えることで副作用を回避したり、治療方法が異なる薬疹のタイプ別に早い段階で対処したりすることが期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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