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ミトコンドリア病治療候補薬、老化による活動性の低下をモデル生物で改善-東北大

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2023年08月03日 AM11:34

老化と密接に関わるミトコンドリア機能

東北大学は8月2日、ミトコンドリア病治療候補薬MA-5により、モデル生物線虫の老化による活動性の低下が改善することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究科のWu Xintong博士研究員、清田未来大学院生、東谷篤志教授、医学系研究科の阿部高明教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「npj Aging」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

神経や骨格筋の老化は心身の働きを弱めフレイルの発症につながるため、高齢化社会における深刻な問題である。また老化においては、さまざまな組織・器官におけるミトコンドリアの働きやその量が低下することも知られている。

ミトコンドリアは細胞内でエネルギーを産生する細胞内小器官であり、ミトコンドリア機能に障害が起こると、さまざまな重篤な疾患の原因となることが知られている。研究グループは、ミトコンドリア病治療薬候補化合物MA-5を開発してきた。現在、成人健常者を対象とした安全性・体内動態の臨床試験結果が実施され、データの解析が進められている。ミトコンドリアの働きは、細胞、組織、器官の老化にも密接に関わることが広く知られている。

線虫を用いて、ミトコンドリア病治療薬候補化合物の老化に対する効果を調査

研究グループは、モデル生物の1つであるCエレガンス()を用いて、その老化に対するMA-5の効果を調べた。線虫は4日間で卵から成虫になり、その後、多くの卵を産卵する生殖期を経て、徐々に活動性が低下し、およそ3~4週間で寿命を迎える。その間、体を作る約1,000個の細胞は再生することなく、それぞれ老化することから、個体ならびに細胞レベルでの老化研究にも良く利用されている。これまでに、研究グループはMA-5が線虫の筋ジストロフィーやパーキンソン病など神経筋疾患モデルに対しても有効な改善効果を発揮することを報告してきた。

MA-5投与で加齢に伴う運動性低下が抑制、細胞レベルでも老化進行の緩和を確認

今回、少量のMA-5の投与を続けることで、線虫の加齢に伴う運動性ならびに神経反射の応答性の低下が抑えられることが確認された。

また細胞レベルでの解析により、運動に不可欠な体壁筋細胞内のミトコンドリアの断片化と消失、それらを惹起するミトコンドリアCa2+の過剰蓄積、頭部の感覚神経では樹状突起にみられる老化損傷の亢進のいずれもが緩和することが明らかになった。一方で、線虫の寿命の延伸には効果が見られなかった。これまでの線虫の老化研究において、カロリー制限や軽度なミトコンドリア障害ストレスに伴う抗酸化酵素の活性化などが、寿命を延伸することが知られてきたが、今回のMA-5による作用はこれらとは異なり、老化による活動性の低下を抑えいわゆる健康寿命が延伸したものと考えられる。

「これらの結果は、MA-5ミトコンドリア病や神経筋疾患の治療に加えて、ヒトの老化を予防・改善し、フレイルの発症を抑え、健康寿命の延伸に資する効果についても期待される」と、研究グループは述べている。

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