医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 妊娠高血圧症候群や胎児発育不全にも「ネオセルフ抗体」が関連-神戸大ほか

妊娠高血圧症候群や胎児発育不全にも「ネオセルフ抗体」が関連-神戸大ほか

読了時間:約 3分23秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年07月07日 AM11:09

不妊症との関連が判明したネオセルフ抗体、産科異常症との関連は?

神戸大学は7月6日、血栓症などの原因となる新しい自己抗体()が、不妊症、子宮内膜症性不妊、反復着床不全だけでなく、妊娠高血圧症候群や胎児発育不全など妊娠中の異常にも関与することを世界で初めて証明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の谷村憲司准教授(産科婦人科学分野)、手稲渓仁会病院不育症センターの山田秀人センター長、大阪大学微生物病研究所の荒瀬尚教授らの研究グループによるもの。研究成果は「International Journal of Molecular Sciences」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

高血圧に脳、肝臓、腎臓など重要な臓器への障害が加わり、妊婦や胎児の命に関わる危険性がある妊娠高血圧症候群という妊娠中に特有な病気がある。また、胎児が同じ妊娠週数の標準的な胎児の体重と比べてかなり軽く、ひどい場合には胎児が子宮の中で死んでしまったり、産まれてもすぐ死んでしまったりする危険性がある胎児発育不全という妊娠中に特有な病気もある。日本では少子化問題が深刻になっているが、妊娠高血圧症候群や胎児発育不全などが起こってしまうと、早い妊娠週数で妊婦の命を守るために帝王切開が必要となったり、出生児が死んでしまったり、生存しても重い後遺症を持ったりする危険性がある。しかし、現在のところ、これらの妊娠中の疾患(以下、産科異常症という)が起こるメカニズムはほとんどわかっておらず、有効な治療法もない。

荒瀬尚教授と谷村憲司准教授は、脳梗塞などの血栓症や流産、妊娠高血圧症候群などの病気を引き起こす抗リン脂質抗体症候群という病気の原因となる新しい自己抗体(ネオセルフ抗体)を共同研究により発見し、2015年に論文発表した。その後、神戸大学を中心とする5つの大学病院の共同研究で、妊娠はできても流産を繰り返して元気な子どもを得ることができない不育症に悩む女性227人の約4分の1でネオセルフ抗体が陽性であり、ネオセルフ抗体が不育症の主な原因である可能性が明らかになり、2020年に論文発表した。また、2023年には、、神戸大学の共同研究でネオセルフ抗体が不妊症、子宮内膜症性不妊、反復着床不全にも関連することがわかり、論文発表している。このように、ネオセルフ抗体と不妊症、不育症との関係が明らかになる中、妊娠高血圧症候群、胎児発育不全、早産など産科異常症とネオセルフ抗体が関係するかはこれまで検討されていなかった。

、妊娠高血圧症候群、胎児発育不全、早産を検討

今回、神戸大学を中心とする全国4つの大学病院と手稲渓仁会病院の合計5つの病院による共同研究によって、産科異常症とネオセルフ抗体の間にも関連性があるかを世界で初めて調べた。この研究に参加した全国5病院に通院もしくは入院した不育症女性、過去もしくは現在の妊娠中に妊娠高血圧症候群や胎児発育不全や早産になった女性、持病も過去の妊娠中に産科異常症もなく、今回の妊娠中にも問題なく満期に正常の大きさの子どもを出産した産後女性(以下、正常分娩女性という)のそれぞれに対して、同意のうえで採血し、ネオセルフ抗体を測定した。それぞれのグループにおけるネオセルフ抗体の陽性率を比較、統計処理することで、不育症、妊娠高血圧症候群、胎児発育不全、早産のそれぞれとネオセルフ抗体との関連性を調べた。

なお、ネオセルフ抗体は、抗リン脂質抗体症候群を引き起こす抗体の標的であると考えられているβ2グリコプロテインIというタンパク質と抗リン脂質抗体症候群になりやすい型のHLAクラスⅡが合体したもの(以下、複合体という)を細胞表面に出した細胞をつくり、患者の血液と反応させて、細胞表面の複合体と結合した抗体を検出するという、研究グループが考え出した特許技術を使って測定した。

ネオセルフ抗体陽性、妊娠高血圧症候群17.4%、胎児発育不全15.3%

ネオセルフ抗体が陽性となった割合は次のような結果だった。不育症女性462人中78人(16.9%)、過去もしくは現在の妊娠中に妊娠高血圧症候群になった女性138人中24人(17.4%)、過去もしくは現在の妊娠中に胎児発育不全を持った女性124人中19人(15.3%)、過去もしくは現在の妊娠中に早産した女性71人中8人(11.3%)、正常分娩女性488人中27人(5.5%)。

女性の年齢、ボディマス指数(肥満度を表す指数)、喫煙など妊娠高血圧症候群や胎児発育不全に影響を及ぼしそうな他の要因を考慮して、ネオセルフ抗体とそれぞれの産科異常症との関連の強さを統計処理して調べたところ、不育症、妊娠高血圧症候群、胎児発育不全のそれぞれとネオセルフ抗体との間に関連性があることがわかった。

ネオセルフ抗体の研究が少子化問題解決の鍵となる可能性

ネオセルフ抗体を研究することで、不育症、妊娠高血圧症候群、胎児発育不全の発症メカニズムが解明でき、これらの病気やその後遺症に苦しむカップルや妊婦、子どもたちの数を減らすことができ、強いては少子化問題を解決する鍵となる可能性がある。

「今後は、ネオセルフ抗体の産生を抑えたり、その働きを阻害したりするような薬剤を開発し、不育症、不妊症や妊娠高血圧症候群や胎児発育不全の治療に結び付けたいと考えている。さらに、リウマチなど患者数の多い自己免疫疾患においても、それらを引き起こすネオセルフ抗体が存在する可能性があり、免疫学の分野にも革新的な発展をもたらすかもしれない」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 腎臓オルガノイド、近位尿細管の成熟化に関与する経路発見・成熟加速に成功-理研ほか
  • HPVワクチン、医療系学生の接種率や忌避理由の調査結果発表-岡山大
  • 大腸がん検診GL最新版を公開、便潜血は推奨A・全大腸内視鏡はC-国がん
  • IBD患者のマルチバイオームの特徴は世界共通、UC/CDでは異なる-東京医科大ほか
  • 中小規模事業所の職域健診での新規高血圧者、半年以内の受診率は7.5%-琉球大