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肝細胞に2種類の核内脂肪滴が存在、種々の肝疾患生検標本から特徴も解明-名大ほか

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2023年05月15日 AM11:28

肝細胞の核内に認められる脂肪滴、各肝疾患で違いはあるか?

名古屋大学は5月11日、肝細胞に特徴的に認められる核内脂肪滴が、付随する細胞質・核膜陥入の有無によって2種類に分類され、それぞれ異なる臨床的特徴を持っていることを明らかとしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科消化器内科学の今井則博助教、川嶋啓揮教授、分子細胞学の和氣弘明教授、札幌医科大学解剖学第一講座の大﨑雄樹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

動物細胞の多くはリン脂質一重膜と中性脂質(トリアシルグリセロールとコレステロールエステル)のコアから構成される脂肪滴を細胞内に保持している。脂肪滴は小胞体膜のリン脂質二重層で合成された中性脂質が大きくなり、小胞体膜の一部を外皮として、通常は細胞質に遊離すると考えられている。細胞質内の脂肪滴には多数の機能性分子が存在し、エネルギー貯蔵、熱産生、タンパク質分解など多くの生理的意義が明らかとなってきている。細胞核はリン脂質二重膜によって細胞質と隔てられ、遺伝情報であるDNAを保持し、その複製やmRNAへの転写を通じて細胞内の動的平衡を維持しているが、近年、肝細胞や肝がん細胞において、特徴的に細胞核にも脂肪滴が豊富に存在することが判明し、その形成機構や機能が注目されている。

研究グループはこれまでに、肝細胞の核の中に存在する脂肪滴が、さまざまなストレスにさらされる肝臓において、肝細胞の生理機能を維持するうえで重要な役割を担っていることを実験室レベルで明らかにしてきた。しかしながら実際の肝疾患において肝細胞内の核内脂肪滴がどのような病態生理学意義を持っているのか、またその発現頻度が疾患や病勢において変化するのかはこれまでに明らかではなかった。今回、さまざまな肝疾患において生体内肝細胞における核内脂肪滴がどのような頻度、形態で確認されるかを明らかとすることを目的とした。

脂肪滴は「核質内」7割「細胞質から核内陥入」3割、疾患による頻度差なし

今回の研究では、同大医学部附属病院において肝生検を行った80名の患者を対象とした。対象者の肝生検標本の一部を電子顕微鏡用に二重固定し、包埋・薄切の後に透過電子顕微鏡JEM1400Flashを用いて観察を行った。肝細胞の超微細構造の評価は、臨床情報のない状況で独立して行われた。核内の脂肪滴は、脂肪滴に隣接する細胞質および核膜陥入の有無により、核質に単独に存在する「真の核内脂肪滴」(核質内脂肪滴)と細胞質とともに核膜の陥入として認められる脂肪滴(細胞質脂肪滴の核内陥入)の2種類に区別した。対象症例における性別および年齢は、男性35名、女性45名、平均年齢は58歳(24~89歳)だった。また、病理診断結果の内訳は、非アルコール性脂肪性肝炎が12名、薬物性肝障害が11名、悪性腫瘍が22名、自己免疫性肝炎が7名、その他が28名だった。

透過電子顕微鏡による検討の結果、対象症例のうち、核質内脂肪滴は69%、細胞質脂肪滴の核内陥入は32%の肝生検検体に認められた。核質内脂肪滴と細胞質脂肪滴の核内陥入の発生頻度には相関を認めなかった。核質内脂肪滴、細胞質脂肪滴の核内陥入は共に自己免疫性肝炎において高頻度で認められたが、疾患特異的な発生頻度の変化は認められなかった。

「核質内」は小胞体ストレスと関連、「細胞質から核内陥入」は脂肪肝細胞では抑制

核質内脂肪滴は非アルコール性脂肪性肝炎においても高頻度に認められたが、核質内脂肪滴の頻度と細胞質の脂肪化(脂肪肝の比率)との間には相関がなく、核質内脂肪滴が細胞質の脂肪化を直接反映していないことが示された。また核質内脂肪滴の発生頻度は、細胞内小器官である小胞体の内腔拡張との間に有意な正の相関が認められ、小胞体ストレスが惹起された際に核内で核質内脂肪滴が形成されることが示唆された。

核質内脂肪滴とは対照的に、細胞質脂肪滴の核内陥入は20%以上の肝細胞の脂肪肝を認める症例では認められなかったことから、細胞質脂肪滴の核内陥入は過剰な脂質の蓄積された肝細胞では形成が抑制されることが示唆された。さらに、細胞質脂肪滴の核内陥入の発生頻度と小胞体内腔の拡張との間には有意な相関関係は認められなかった。

肝細胞の核内に存在する2種類の脂肪滴(核質内脂肪滴・細胞質脂肪滴の核内陥入)に着目した今後の研究により、新たな知見の獲得が期待される。「核内脂肪滴を中心とした新たな生理メカニズムを解明することで、新たな治療法へつながる病態メカニズムの解明への足掛かりとなることが期待される」と、研究グループは述べている。

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