医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 選択的DOP作動薬KNT-127、抗ストレス+抗うつ様作用を併せ持つ-東京理科大ほか

選択的DOP作動薬KNT-127、抗ストレス+抗うつ様作用を併せ持つ-東京理科大ほか

読了時間:約 3分7秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年05月09日 PM12:35

うつ病のオピオイドδ受容体作動薬、cVSDSマウスを用いて機能的メカニズムを解析

東京理科大学は5月8日、うつ病の有効なモデルである代理社会的敗北ストレス(cVSDS)モデルマウスを用いた一連の実験を行い、選択的オピオイドδ受容体(DOP)作動薬KNT-127が、抗うつ様作用と抗ストレス作用の両方を示すことを見出したと発表した。この研究は、同大薬学部薬学科の斎藤顕宜教授、山田大輔講師、大学院薬学研究科の吉岡寿倫氏(博士課程1年)、先進工学部生命システム工学科の瀬木(西田)恵里教授、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の長瀬博名誉教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Neuropharmacology」にオンライン掲載されている。

現代におけるうつ病患者数は全世界で約3億人にも達し、世界で最もよくみられる精神疾患の1つとなっている。うつ病では、視床下部-下垂体-副腎皮質(HPA)軸、成体海馬の神経新生、神経炎症が病態生理因子の鍵とされてきたが、詳細な作用メカニズムについては未解明な部分が多く残されている。一方、新規抗うつ薬のターゲットであるDOPは、副作用の少ない迅速な作用が期待されている。研究グループは、以前より選択的DOP作動薬KNT-127が既存薬よりもDOPに対する高い選択性と活性を有し、かつ副作用のリスクが少ないことを見出しており、その成果をもとに新規うつ病治療薬としての臨床開発に注力してきた。しかしながら、KNT-127の脳内における機能的なメカニズムについては、ほとんど明らかになっていなかった。

また、cVSDSマウスの社会相互作用テスト(SIT)で見られる社会的回避行動は、ストレス期間直後よりも1か月後に有意に増加することが過去の研究からわかっている。しかし、その詳細な機構についてはわかっていなかった。研究グループは、過去にcVSDSがストレス期間中に海馬歯状回における新生神経の生存率を低下させることを報告していた。その知見から、ストレス期間から社会的回避行動の悪化までの1か月のタイムラグは海馬の神経新生の異常が要因ではないかと仮説を立てていた。

10日間のストレス後にKNT-127を投与、新生神経細胞の生存に影響せず抗うつ様作用を発揮

以上の背景を踏まえ、研究グループは、うつ病のモデルとして妥当性の高いcVSDSモデルマウスを使用し、選択的DOP作動薬KNT-127を繰り返し投与したときの影響、KNT-127の治療・予防効果、作用機序の解明を目的として研究を進めた。

先行研究を参考にcVSDSモデルマウスの作製を行い、実験に使用した。まず、KNT-127の繰り返し投与が、マウスの海馬歯状回における神経新生に与える影響を確認した。マウスに投与したBrdUの取り込み細胞数について、フルオキセチン(既存の抗うつ剤)では増加する一方で、KNT-127では変化が見られなかった。これは、KNT-127が従来の抗うつ剤とは異なり、海馬の神経新生に影響を与えないことを示唆している。

次に、10日間のストレス期間終了後にKNT-127を繰り返し投与した場合の影響を調べた。KNT-127を28日間投与(3mg/kg/日)すると、SITにおける相互作用ゾーンでの滞在時間が増加し、血漿コルチコステロン値が増加することがわかった。この結果は、KNT-127が新生した神経細胞の生存率には影響を与えることなく、抗うつ様作用を発揮することを示している。

ストレス期間中の投与では、抗ストレス作用と新生神経細胞死の抑制効果

さらに、10日間のストレス期間中にKNT-127を繰り返し投与した場合の影響を調べた。KNT-127(3mg/kg/日)を各ストレス期の30分前に投与したところ、4週間後におけるSITでの社会的相互作用の割合が増加し、血漿コルチコステロン濃度の上昇を抑制することがわかった。また、KNT-127は、cVSDSに伴う海馬歯状回における新生した神経細胞の生存率の低下を抑制していることも明らかとなった。これらの結果により、KNT-127が抗ストレス作用を有すると同時に、精神的ストレスによる過剰な新生神経細胞死を抑制する効果があることが判明した。

海馬歯状回における抗炎症作用も確認

最後に、KNT-127がcVSDSマウスの神経炎症に影響を与えるかどうかを評価した。cVSDSマウスの海馬歯状回で総ミクログリア数(Iba-1陽性細胞)と活性化ミクログリア数(CD11b陽性細胞)が増加していたことから、cVSDSマウスが神経炎症を引き起こしていることがわかった。ここでKNT-127のストレス期間中投与とストレス期間終了後投与の両方でミクログリアが減少したことから、海馬歯状回において抗炎症作用を示すことが明らかとなった。

「本研究は、DOP作動薬が既存薬とは全く異なる作用機序を有する可能性を示している。そのため、臨床開発が成功すれば、今後のうつ病治療戦略の選択肢が増えることが期待される。また、抗うつ様作用に加え、抗ストレス作用も有するので、うつ病患者の治療期間中のストレス軽減にも大きく貢献できると考えている」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 平均身長の男女差、軟骨の成長遺伝子発現量の違いが関連-成育医療センターほか
  • 授乳婦のリバーロキサバン内服は、安全性が高いと判明-京大
  • 薬疹の発生、HLAを介したケラチノサイトでの小胞体ストレスが原因と判明-千葉大
  • 「心血管疾患」患者のいる家族は、うつ病リスクが増加する可能性-京大ほか
  • 早期大腸がん、発がん予測につながる免疫寛容の仕組みを同定-九大ほか