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多系統萎縮症、医師主導治験でユビキノールに有効性を示す結果-東大病院

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2023年04月18日 PM12:00

進行性かつ予後不良な多系統萎縮症、進行を抑制する治療法はまだない

東京大学医学部附属病院は4月14日、多系統萎縮症に対する多施設共同医師主導治験を行い、高用量のユビキノール服用によって多系統萎縮症の運動症状の進行抑制を支持する結果を世界に先駆けて見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の辻省次名誉教授と、三井純特任准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「eClinicalMedicine」にオンライン掲載されている。

多系統萎縮症は、自律神経症状、小脳性運動失調、パーキンソン症状などさまざまな神経障害をきたす神経疾患である。国内では、約1万2,000人が罹患していると推測されており、厚生労働省が定める指定難病に認定されている。病理学的には、アルファ・シヌクレインというタンパク質が、主として脳のグリア細胞に異常に蓄積していることがわかっており、パーキンソン病などとともにアルファ・シヌクレイン関連の神経変性疾患と考えられている。病気の原因は十分には解明されておらず、多系統萎縮症に対する治療については症状を緩和する対症療法にとどまっており、病気の症状進行を抑制する治療法(疾患修飾療法)は見つかっていない。発症年齢は平均50代半ばで、発症から約5年で患者の50%が自立歩行困難になるなど、進行性の予後不良な神経難病である。

ゲノム解析から見出したユビキノールによる治療法の有効性と安全性を調べる治験を実施

研究グループはこれまでに、多系統萎縮症の家族例・孤発例に対する詳細なゲノム解析から、コエンザイムQ10を合成する酵素の一つをコードしているCOQ2遺伝子の変異が多系統萎縮症の発症と関連することを見出した。さらに、COQ2遺伝子変異を持つ、家族性の多系統萎縮症患者に対するコエンザイムQ10補充により脳の酸素代謝率が改善すること、COQ2遺伝子の変異がない患者においても血中のコエンザイムQ10量が低下していることを示してきた。

それらの成果をもとに、研究グループは、高用量の還元型コエンザイムQ10()が、多系統萎縮症の患者に広く有効ではないかと考え、治療法の開発を行ってきた。これまでに健康成人を対象とした第1相治験によってユビキノールの安全性と薬物動態を明らかにしており、これを踏まえ、今回の多系統萎縮症患者を対象に有効性と安全性を調べる第2相治験を実施した。

運動症状に関するスコアの平均変化量に有意な差を認めた

この治験は、多系統萎縮症に対する高用量のユビキノールの有効性と安全性を検討するために行われた多施設共同プラセボ対照二重盲検比較試験であり、医師主導治験として2018年に開始された。国内の13施設が参加し、合計139人の多系統萎縮症患者が参加した。

主要評価項目として設定された運動症状の指標である統一多系統萎縮症評価スケール・パート2スコアの0週から48週までの平均変化量は、プラセボ投与群が7.1点に対して、ユビキノール投与群では5.4点だった。両群の差は-1.7点(95%信頼区間は-3.2点から-0.2点)、統計学的な検定ではp値0.023と有意な差を認めた。治験薬との因果関係が否定できない有害事象の出現頻度は、ユビキノール投与群(23.8%)、プラセボ投与群(30.9%)と同程度だった。

「これまで、さまざまな治療法が多系統萎縮症に対して試みられてきたが、有効性を示す結果を得た研究は存在しなかった。従って、今回の治験の対象となった患者群で多系統萎縮症の運動症状の進行抑制を支持する結果を初めて見出した先駆的な研究と言える」と、研究グループは述べている。

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